ゆうゆうかんかん 悠悠閑閑
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《トラップの厄日 前編》
朝日がキラキラと輝くダイニングで、私はルーミィと朝ごはんの用意の真っ最中。
焼きあがったパンがとってもいいにおい!
「おっけー。ルーミィ、じゃあ最後にこのお皿を並べてくれる?」
お願いすると、ルーミィはお皿を並べ始めてくれた。
ふふ。ルーミィは最近、よくお手伝いしてくれるの。
「ぱぁーるー。こえでいいんかぁ?」
「うん。完璧よ、ルーミィ。お手伝いありがとう。」
ルーミィの頭をよしよしと撫でてあげると、ルーミィは嬉しそうに、
「るーみぃ、おてつらいくらいできるよお!ね、しおちゃん!」
「はいデシ。ルーミィしゃんとってもえらいデシ!」
シロちゃんからも褒められて、ルーミィは腰に手を当てて「えっへん。」と言った。
うん!もうっ。かわいいなぁ。
私がもう一度頭を撫でていると、ダイニングのドアが開いて
「パステル、ルーミィ、シロ、おはよう。」と暖かい声がした。
「おはよう、クレイ。」
「おはようだおう!くれぇー!」
「おはようさんデシ。クレイしゃん。」
にっこり笑顔であいさつすると、クレイは目をつぶりながら、
「んー。おいしそうなにおい!パステルのパンは美味しいもんなー。俺、ルーミィじゃないけど、おなかぺっこぺこだよ。」
と笑った。
「あはは。ありがとう。実はね今日のパン、かなりの自信作なんだ!いっぱい作ったから、たっくさん食べてね!」
クレイは席に着きながら、さらに嬉しい事をいってくれた。
「パステルは料理も上手いし、お裁縫も出来るし、面倒見もいいから絶対にいいお嫁さんになれるよ。うん。もし俺結婚するなら、パステルみたいな人がいいな。」
な んて嬉しい事を言ってくれるんだろう!!
だって、クレイといえば町を歩けば女性みんなが振り返るほどの男前で、人望も厚くって性格もハナマル!な男性でしょ?
そんな人から「もし結婚するなら、パステルみたいな人がいい。」なんて言われたら、女冥利に尽きるわ!
うっふふー。
なんて一人でニマニマしていると、開きっぱなしのドアから声がした。
「おやおやクレイ。朝からパステルにプロポーズですか?」
ぎゃはぎゃは笑いながらキットンが入ってきた。後ろからノルも一緒だ。
「えー!?んもうっ。何寝ぼけた事いってんのよキットンは。ノル、おはよう。」
ノルはニコニコしながら「おはよう、パステル。」と返事してくれた。
「寝ぼけてるのはあなたでしょ?パステル。今のはどこをどう聞いても、プロポーズにしか聞こえませんでしたよ。ねえノル。」
食い下がってくるキットンにいきなり話を振られたノルは
「俺もパステルは、いいお嫁さんになると思うよ。」
と笑顔で言った。
なんだか褒められすぎると、背中がむずむずしてくるよね。
ゆるみっぱなしの顔が恥ずかしくって、なんでもないですよーって顔に気合をいれるんだけど・・・だめだ!口の端がピクピクしてきちゃうっ!
あーあ。だからトラップにポーカーフェイスが出来てねぇ!なんて言われるんだよねー。
と私はここまで考えて、思い当たった事を口にした。
「トラップはまだ寝てるの?」
私がトリップしている間に、私とトラップ以外全員着席していた。
ちなみにルーミィはすでにパンにかぶりついてたけどね!
「あー。あいつ昨日も遅かったみたいだしな。」
クレイはマグカップに熱々のコーヒーを注ぎながら、大方予想の付いていた答えをくれた。
「はあああぁぁ。」
んもう。またあいつを起こさないといけないのか・・・。何も予定が無い日はそのままほっといて、先に朝ごはんを食べちゃうんだけど、今日はエベリンまでピポちゃんでお出掛けするから、そうも言ってられない。
するとキットンが、
「ぎゃははっ!トラップは甘えたですね。将来、トラップと結婚した人は大変ですね。」
ねぇ。パステル。と言ってきた。
「たしかに、トラップのお嫁さんはぜ ったい大変だよね!一生あの寝起きの悪さに付き合うなんて考えられない!はげちゃうよ!!」
私が言うと、
「とりゃーがはげたらへーんなの!ね。しおちゃん。」
「そうデシね。トラップあんちゃん、はげちゃうデシ?」
我がパーティのアイドル一人と一匹が、そんな事言うもんだから、みんな想像しちゃった。
ぶぶぶっ!私もしっかり想像して。
誰かが、
「っぷ。」
と噴出したのがみんな我慢の限界。お腹を抱えて笑い転げだした。
ひ 。お、可笑しすぎるぅ!
可笑しくって涙まで出てくるよ。でもそれもみんな同じだったみたいで。
「あはははっ!ち、違うのよ、ルーミィ。はげるのはトラップじゃなくって、トラップのお嫁さんになった人よ。」
「ぎゃははははっ!パステル、それではルーミィが誤解してしまいますよ。」
キットンは短い人差し指を、チッチッチ。と動かしながら言った。
「たしかになぁ。それじゃあ、トラップのお嫁さんがはげてるって言ってるみたいだよ!パステル!」
目の端に涙を浮かべながらクレイも、ひーひー笑ってる。
「あはは。そっか、確かにそうだよね。ーんとね、トラップのお嫁さんは毎日トラップを起こさないといけないから、大変だねー。って事なのよ、わかった?」
ルーミィとシロちゃんはキョトンとしたまま、首を傾げてしまった。そりゃわかんないか!
「あーあ。面白かったぁ。」
気が済むまで笑った私に
「じゃあパステル頼むよ。」
クレイが両手を合わせて頼んでくる。
「えぇっ!?私なのー?」
「パステルが起こすのが一番被害者が少なくて済みますしね。」
キットンが聞き捨てなら無いことを、さらっと言ってのけた。
「ちょっと、キットン!私は被害に遭っても良いって言うの!?」
ぐいぐいとキットンの首をしめる。トラップもそうだけど、キットンもいつも一言いや。三言くらい多いんだもん!
私が一人憤慨してると、
「キットンはきっと、トラップを起こすのはパステルが一番上手だって言ってるんだよ。」
首をしめられたままのキットンは「まぁ。大体あってます。」なーんてほざいてたけど、ノルにそう言われたら引くしかないじゃない?
「しょーがないなー。頑張ってくるかな。」
かなり投げやりな私の決意に、四人と一匹からあたたかいエールが送られた。
続編
朝日がキラキラと輝くダイニングで、私はルーミィと朝ごはんの用意の真っ最中。
焼きあがったパンがとってもいいにおい!
「おっけー。ルーミィ、じゃあ最後にこのお皿を並べてくれる?」
お願いすると、ルーミィはお皿を並べ始めてくれた。
ふふ。ルーミィは最近、よくお手伝いしてくれるの。
「ぱぁーるー。こえでいいんかぁ?」
「うん。完璧よ、ルーミィ。お手伝いありがとう。」
ルーミィの頭をよしよしと撫でてあげると、ルーミィは嬉しそうに、
「るーみぃ、おてつらいくらいできるよお!ね、しおちゃん!」
「はいデシ。ルーミィしゃんとってもえらいデシ!」
シロちゃんからも褒められて、ルーミィは腰に手を当てて「えっへん。」と言った。
うん!もうっ。かわいいなぁ。
私がもう一度頭を撫でていると、ダイニングのドアが開いて
「パステル、ルーミィ、シロ、おはよう。」と暖かい声がした。
「おはよう、クレイ。」
「おはようだおう!くれぇー!」
「おはようさんデシ。クレイしゃん。」
にっこり笑顔であいさつすると、クレイは目をつぶりながら、
「んー。おいしそうなにおい!パステルのパンは美味しいもんなー。俺、ルーミィじゃないけど、おなかぺっこぺこだよ。」
と笑った。
「あはは。ありがとう。実はね今日のパン、かなりの自信作なんだ!いっぱい作ったから、たっくさん食べてね!」
クレイは席に着きながら、さらに嬉しい事をいってくれた。
「パステルは料理も上手いし、お裁縫も出来るし、面倒見もいいから絶対にいいお嫁さんになれるよ。うん。もし俺結婚するなら、パステルみたいな人がいいな。」
な
だって、クレイといえば町を歩けば女性みんなが振り返るほどの男前で、人望も厚くって性格もハナマル!な男性でしょ?
そんな人から「もし結婚するなら、パステルみたいな人がいい。」なんて言われたら、女冥利に尽きるわ!
うっふふー。
なんて一人でニマニマしていると、開きっぱなしのドアから声がした。
「おやおやクレイ。朝からパステルにプロポーズですか?」
ぎゃはぎゃは笑いながらキットンが入ってきた。後ろからノルも一緒だ。
「えー!?んもうっ。何寝ぼけた事いってんのよキットンは。ノル、おはよう。」
ノルはニコニコしながら「おはよう、パステル。」と返事してくれた。
「寝ぼけてるのはあなたでしょ?パステル。今のはどこをどう聞いても、プロポーズにしか聞こえませんでしたよ。ねえノル。」
食い下がってくるキットンにいきなり話を振られたノルは
「俺もパステルは、いいお嫁さんになると思うよ。」
と笑顔で言った。
なんだか褒められすぎると、背中がむずむずしてくるよね。
ゆるみっぱなしの顔が恥ずかしくって、なんでもないですよーって顔に気合をいれるんだけど・・・だめだ!口の端がピクピクしてきちゃうっ!
あーあ。だからトラップにポーカーフェイスが出来てねぇ!なんて言われるんだよねー。
と私はここまで考えて、思い当たった事を口にした。
「トラップはまだ寝てるの?」
私がトリップしている間に、私とトラップ以外全員着席していた。
ちなみにルーミィはすでにパンにかぶりついてたけどね!
「あー。あいつ昨日も遅かったみたいだしな。」
クレイはマグカップに熱々のコーヒーを注ぎながら、大方予想の付いていた答えをくれた。
「はあああぁぁ。」
んもう。またあいつを起こさないといけないのか・・・。何も予定が無い日はそのままほっといて、先に朝ごはんを食べちゃうんだけど、今日はエベリンまでピポちゃんでお出掛けするから、そうも言ってられない。
するとキットンが、
「ぎゃははっ!トラップは甘えたですね。将来、トラップと結婚した人は大変ですね。」
ねぇ。パステル。と言ってきた。
「たしかに、トラップのお嫁さんはぜ
私が言うと、
「とりゃーがはげたらへーんなの!ね。しおちゃん。」
「そうデシね。トラップあんちゃん、はげちゃうデシ?」
我がパーティのアイドル一人と一匹が、そんな事言うもんだから、みんな想像しちゃった。
ぶぶぶっ!私もしっかり想像して。
誰かが、
「っぷ。」
と噴出したのがみんな我慢の限界。お腹を抱えて笑い転げだした。
ひ
可笑しくって涙まで出てくるよ。でもそれもみんな同じだったみたいで。
「あはははっ!ち、違うのよ、ルーミィ。はげるのはトラップじゃなくって、トラップのお嫁さんになった人よ。」
「ぎゃははははっ!パステル、それではルーミィが誤解してしまいますよ。」
キットンは短い人差し指を、チッチッチ。と動かしながら言った。
「たしかになぁ。それじゃあ、トラップのお嫁さんがはげてるって言ってるみたいだよ!パステル!」
目の端に涙を浮かべながらクレイも、ひーひー笑ってる。
「あはは。そっか、確かにそうだよね。ーんとね、トラップのお嫁さんは毎日トラップを起こさないといけないから、大変だねー。って事なのよ、わかった?」
ルーミィとシロちゃんはキョトンとしたまま、首を傾げてしまった。そりゃわかんないか!
「あーあ。面白かったぁ。」
気が済むまで笑った私に
「じゃあパステル頼むよ。」
クレイが両手を合わせて頼んでくる。
「えぇっ!?私なのー?」
「パステルが起こすのが一番被害者が少なくて済みますしね。」
キットンが聞き捨てなら無いことを、さらっと言ってのけた。
「ちょっと、キットン!私は被害に遭っても良いって言うの!?」
ぐいぐいとキットンの首をしめる。トラップもそうだけど、キットンもいつも一言いや。三言くらい多いんだもん!
私が一人憤慨してると、
「キットンはきっと、トラップを起こすのはパステルが一番上手だって言ってるんだよ。」
首をしめられたままのキットンは「まぁ。大体あってます。」なーんてほざいてたけど、ノルにそう言われたら引くしかないじゃない?
「しょーがないなー。頑張ってくるかな。」
かなり投げやりな私の決意に、四人と一匹からあたたかいエールが送られた。
続編
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《トラップの厄日 後編》
トントン。
ノックはしてみたけど、案の定返事は無かった。
「トラップー?入るよー。」
必要ないだろうけど、一応断ってクレイとトラップの部屋に入ると、ベットの上には大きなイモ虫が一匹・・・。
「トラップ!朝よ!起きなさーい!!」
イモ虫をゆさゆさ揺らしながら、トラップのお母さんの真似をしてみたけど、まったく起きる気配ゼロ。
仕方ない。トラップは怒るけど、この起こし方が一番手っ取り早いんだよね。
すう。と息を吸い込んでイモ虫の耳元で、思いっきり叫んだ。
「あ っ!!こんなところに、宝箱がっ!!」
「なにぃ っ!!」
ガバッと飛び起きて、あたりを見渡したトラップと、ばちっと目が合う。
とたんに輝いていた瞳は半目になり、怒りの色が浮かんでいた。
「おはよ。トラップ、朝だよ。」
出来る限り笑顔を作ってみるけど、そんなものに騙されるトラップじゃない。
「おーまーえーなー!」
いまや、完全に目がすわっている。
うわわっ。やっぱり怒っちゃた。
でも、すぐに起きないトラップが悪いんだからね!
「ほらぁ、朝だよ?今日はエベリンに行くんだから、早く朝ごはん、食べちゃってよね。」
「うっせー!俺はまだ寝みーんだよっ!しかも、その起こし方やめろって言ったよな!?人の弱みに付け込みやがって、ひきょうだぞ!くそっ。絶対起きちまうだよ・・・。」
ぶつぶつ文句を言いながら、悔しがってるトラップを見ていたら、さっきのノルの言葉を思い出した。
『トラップを起こすのは、パステルが一番上手だ。』
あれ?あの言葉はノルのお世辞だと思ってたんだけど・・・違うの?
いやいや、トラップを起こすのがいくら上手でも、なんの自慢にもならないんだけど、なんとなく嬉しかった。
「ねぇ。私って天才かも!ふふっ。トラップのお嫁さんに教えてあげなきゃ!」
「うおっ!?」
ベットからおりかけていたトラップが、いきなり後ろにひっくり返った。
「えっ!?大丈夫?トラップ?」
ベットに転がったトラップを助け起こすと、穴が開きそうなほど私を凝視したまま言った。
「・・・おめぇ、何の話してんだ?何?俺の・・・よめぇ?」
ああ、そうだよね。トラップにしたら何の話かと思うよね。
私はトラップが寝ている間の事を説明した。
・・・もちろん、はげ・・・の話は内緒だ。だって絶対っ怒るもん。
「ふーん。そういう事。」
それだけ言うと、ぷいっとあっちを向いてしまった。そんなに怒ることかなぁ?
まあ、勝手にあれこれ言っちゃったのは悪かったかも。はげの罪悪感もあって、私は早めに謝ってみた。
・・・んだけど、ちらっと一瞥しただけで、何も言わない。
フォローしようにも、どんどんドツボにはまりそうで、いい言葉も思いつかないし、どうしようか考えていると、ムスッとした声がした。
「・・・じゃあ、おめぇが一生起こせばいいんじゃね?おめぇ、俺を起こすの、上手いんだろ?」
「でえぇえぇ!?私が?一生?トラップを起こすの?なんでぇ???」
わ、私、はげたくないよぉ!
「しかもトラップのお嫁さんって事はブーツ盗賊団のおかみさんになるって事なんだよ?そんじょそこらの人には無理だと思うだけど?」
私の言い分を黙って聞いてたトラップは、
「そんじょそこらの奴には務まらねぇって、じゃあ誰だったらいいんだよ?」
あごをくいっと、上げた。続けろって事だろう。
「うーん。誰?って言われてもねー。トラップのお母さんみたいな、あんなパワフルな人みたことないもん。私、トラップのお母さんの事、本当にすごいと思うんだよね。心から尊敬してるもん。」
マリーナの話を、リールから詳しく聞いたときも、本当に素敵なお母さんだなって思った。
「だってね、あの大家族の炊事洗濯掃除や、小さい子供や動物達の世話もしてるでしょう?あと財務管理とかも大変だと思うんだ。」
ベラベラと一気に話す私の話を、ニヤニヤしながら聞いてた(怒って無いじゃん!)トラップは
「ふーん。おめぇはあのクソババァの事、そんな風に思ってたんだ?」
ク、クソババァ!?
「ま、たしかにパステルの言う通りだと俺も思うぜ?そんじょそこらの女には、まず無理だな。つーかありえねぇけど。」
きっぱり断言したトラップを見て、ちょっと驚いた。
でも考えてみれば当然なのかも。
超現実主義者な彼のことだ、自分の将来の事もちゃんと考えてるよね。
「トラップ、応援してるから、いい人見つけるんだよ!」
「はあぁっ?おめえに応援なんか絶対頼まねぇよ。大きなお世話。」
ちょっと!人の温かいエールを、秒殺踏みにじらないでよー。確かに役に立てる事なんか、無いかもしれないけどさ。
「ひどーい!」
ほっぺたを膨らまして文句を言うと、びしっと指を指された。
「つーか、おまえ、自分で自分が俺の嫁にぴったりだって言ってるの、解ってんのか?」
「はあ?」
なに寝ぼけた事言ってんの。この人は。
「誰も私が条件満たしてるなんて言って無いじゃん。」
「まぁまぁ。落ち着けって。取り合えず思い出してみそ?お前が言う、理想の条件を。」
「条件?えーだから、大人数の炊事洗濯掃除と子供や動物たちの世話が出来て、あとは財務管理だっけ?」
「だな。」
合ってる、とうなずくと
「じゃあ、質問。」
「質問?」
「そ。好きか嫌いか、でいいからな。」
なんじゃその質問・・・とか思ったけど、考える前に矢継ぎ早に質問されていく。
「料理は?」
「え?えーと、好きだよ。」
「ん。じゃあ洗濯」
「好きかな?」
「はい、掃除。」
「好き。」
「子供や動物の世話。」
「好きだよ。」
「じゃあ最後。財務管理は、ま、聞くまでもねーよな。」
「えぇ?たしかにパーティのお財布係として、任せられてるけど好きってわけじゃないよ?」
「でも出来てるじゃん。俺にはできねぇ。な?俺の言ったとおりだろ?しかも、起こすのも上手いときたら、お前条件満たした上で自分を嫁にしろって言ったも同然だろ。」
一気に体中の血液が上がってくる。
え っ!!私、も、もしかして・・・コレって!
顔を真っ赤にさせて、口をパクパクしてる私にトラップはニヤリと、
「俺、プロポーズされ・・・もが」
「うわぁああわぁあぁあ!!!!!」
恥ずかしさのあまり、両手でトラップの口を塞ぐ。
「ちょっちょっと待って!そ、それ以上言わないでっ!!!」
頭の中がグルグルして、目もグルグルしてきた。心臓はずっとパクパクしっぱなし。
グルグル、バクバク、パクパクしてる私の手を、自分の口からはずして、私にこう言った。
「俺の事嫌いか?」
絵:んこれな様
あまりにもまっすぐな瞳に脈がはねる。そんなの・・・決まってる。
「嫌いじゃない・・・よ?」
トラップの顔が近づいてくる。
うわわわっ。なに?なんなの?
「それって、俺の事・・・す・・・」
「ばっ・・・!!!ノル!押すなっ!!」
「うわぁあああ!!!」
ばったぁ ん!!
びっくりして振り返ると、そこには見慣れた顔の人垣が出来ていた。
「んなっ!?な、なにしてんのみんな!?」
でへへと笑いながらキットンが嬉しそうに、
「いやぁ、あんまりパステルが遅いもんですから、様子を見に来ただけですよ?」
と、悪びれることなく言った。
「全員で!?」
「ぐふふふ。それが、楽しそうな会話でしたから、声をかけるのが忍びなくてですね、つい。」
つい・・・。
もう、開いた口は塞がらない。開きっぱなしだ。
「き、聞いてたの !?」
「はい。おめでとうございます。」
どっかぁ ん!!
私・・・きっと壊れたんだと思う。だって全身真っ赤で瞳は涙目だし、口はずっとパクパク・・・心臓もずっとうるさい。
「パステル。」
どきんっ!
首をギギギギギギ・・・と、軋ませて振り返る。
「返事は?俺の事、好きか?」
両目から涙が溢れてきて、私の感情と共に流れ落ちていった。
「だ・・・だっ・・・だい・・・」
「「「「「「だい?」」」」」」
「っ!!!!!大嫌いに決まってるでしょ っ!!??」
脱兎の如くとはこの事だ。気が付いたら庭にいた。
溢れ出てくる涙を必死にぬぐっても、止まらない。
もう!この涙はトラップのせいだ!バカバカバカ、バカトラップ!!
大きく息を吸い込んで、思いっきり空に叫ぶ。
「絶対、大っ嫌いっ!!」
おしまい。
二次小説部屋に戻る
トントン。
ノックはしてみたけど、案の定返事は無かった。
「トラップー?入るよー。」
必要ないだろうけど、一応断ってクレイとトラップの部屋に入ると、ベットの上には大きなイモ虫が一匹・・・。
「トラップ!朝よ!起きなさーい!!」
イモ虫をゆさゆさ揺らしながら、トラップのお母さんの真似をしてみたけど、まったく起きる気配ゼロ。
仕方ない。トラップは怒るけど、この起こし方が一番手っ取り早いんだよね。
すう。と息を吸い込んでイモ虫の耳元で、思いっきり叫んだ。
「あ
「なにぃ
ガバッと飛び起きて、あたりを見渡したトラップと、ばちっと目が合う。
とたんに輝いていた瞳は半目になり、怒りの色が浮かんでいた。
「おはよ。トラップ、朝だよ。」
出来る限り笑顔を作ってみるけど、そんなものに騙されるトラップじゃない。
「おーまーえーなー!」
いまや、完全に目がすわっている。
うわわっ。やっぱり怒っちゃた。
でも、すぐに起きないトラップが悪いんだからね!
「ほらぁ、朝だよ?今日はエベリンに行くんだから、早く朝ごはん、食べちゃってよね。」
「うっせー!俺はまだ寝みーんだよっ!しかも、その起こし方やめろって言ったよな!?人の弱みに付け込みやがって、ひきょうだぞ!くそっ。絶対起きちまうだよ・・・。」
ぶつぶつ文句を言いながら、悔しがってるトラップを見ていたら、さっきのノルの言葉を思い出した。
『トラップを起こすのは、パステルが一番上手だ。』
あれ?あの言葉はノルのお世辞だと思ってたんだけど・・・違うの?
いやいや、トラップを起こすのがいくら上手でも、なんの自慢にもならないんだけど、なんとなく嬉しかった。
「ねぇ。私って天才かも!ふふっ。トラップのお嫁さんに教えてあげなきゃ!」
「うおっ!?」
ベットからおりかけていたトラップが、いきなり後ろにひっくり返った。
「えっ!?大丈夫?トラップ?」
ベットに転がったトラップを助け起こすと、穴が開きそうなほど私を凝視したまま言った。
「・・・おめぇ、何の話してんだ?何?俺の・・・よめぇ?」
ああ、そうだよね。トラップにしたら何の話かと思うよね。
私はトラップが寝ている間の事を説明した。
・・・もちろん、はげ・・・の話は内緒だ。だって絶対っ怒るもん。
「ふーん。そういう事。」
それだけ言うと、ぷいっとあっちを向いてしまった。そんなに怒ることかなぁ?
まあ、勝手にあれこれ言っちゃったのは悪かったかも。はげの罪悪感もあって、私は早めに謝ってみた。
・・・んだけど、ちらっと一瞥しただけで、何も言わない。
フォローしようにも、どんどんドツボにはまりそうで、いい言葉も思いつかないし、どうしようか考えていると、ムスッとした声がした。
「・・・じゃあ、おめぇが一生起こせばいいんじゃね?おめぇ、俺を起こすの、上手いんだろ?」
「でえぇえぇ!?私が?一生?トラップを起こすの?なんでぇ???」
わ、私、はげたくないよぉ!
「しかもトラップのお嫁さんって事はブーツ盗賊団のおかみさんになるって事なんだよ?そんじょそこらの人には無理だと思うだけど?」
私の言い分を黙って聞いてたトラップは、
「そんじょそこらの奴には務まらねぇって、じゃあ誰だったらいいんだよ?」
あごをくいっと、上げた。続けろって事だろう。
「うーん。誰?って言われてもねー。トラップのお母さんみたいな、あんなパワフルな人みたことないもん。私、トラップのお母さんの事、本当にすごいと思うんだよね。心から尊敬してるもん。」
マリーナの話を、リールから詳しく聞いたときも、本当に素敵なお母さんだなって思った。
「だってね、あの大家族の炊事洗濯掃除や、小さい子供や動物達の世話もしてるでしょう?あと財務管理とかも大変だと思うんだ。」
ベラベラと一気に話す私の話を、ニヤニヤしながら聞いてた(怒って無いじゃん!)トラップは
「ふーん。おめぇはあのクソババァの事、そんな風に思ってたんだ?」
ク、クソババァ!?
「ま、たしかにパステルの言う通りだと俺も思うぜ?そんじょそこらの女には、まず無理だな。つーかありえねぇけど。」
きっぱり断言したトラップを見て、ちょっと驚いた。
でも考えてみれば当然なのかも。
超現実主義者な彼のことだ、自分の将来の事もちゃんと考えてるよね。
「トラップ、応援してるから、いい人見つけるんだよ!」
「はあぁっ?おめえに応援なんか絶対頼まねぇよ。大きなお世話。」
ちょっと!人の温かいエールを、秒殺踏みにじらないでよー。確かに役に立てる事なんか、無いかもしれないけどさ。
「ひどーい!」
ほっぺたを膨らまして文句を言うと、びしっと指を指された。
「つーか、おまえ、自分で自分が俺の嫁にぴったりだって言ってるの、解ってんのか?」
「はあ?」
なに寝ぼけた事言ってんの。この人は。
「誰も私が条件満たしてるなんて言って無いじゃん。」
「まぁまぁ。落ち着けって。取り合えず思い出してみそ?お前が言う、理想の条件を。」
「条件?えーだから、大人数の炊事洗濯掃除と子供や動物たちの世話が出来て、あとは財務管理だっけ?」
「だな。」
合ってる、とうなずくと
「じゃあ、質問。」
「質問?」
「そ。好きか嫌いか、でいいからな。」
なんじゃその質問・・・とか思ったけど、考える前に矢継ぎ早に質問されていく。
「料理は?」
「え?えーと、好きだよ。」
「ん。じゃあ洗濯」
「好きかな?」
「はい、掃除。」
「好き。」
「子供や動物の世話。」
「好きだよ。」
「じゃあ最後。財務管理は、ま、聞くまでもねーよな。」
「えぇ?たしかにパーティのお財布係として、任せられてるけど好きってわけじゃないよ?」
「でも出来てるじゃん。俺にはできねぇ。な?俺の言ったとおりだろ?しかも、起こすのも上手いときたら、お前条件満たした上で自分を嫁にしろって言ったも同然だろ。」
一気に体中の血液が上がってくる。
え
顔を真っ赤にさせて、口をパクパクしてる私にトラップはニヤリと、
「俺、プロポーズされ・・・もが」
「うわぁああわぁあぁあ!!!!!」
恥ずかしさのあまり、両手でトラップの口を塞ぐ。
「ちょっちょっと待って!そ、それ以上言わないでっ!!!」
頭の中がグルグルして、目もグルグルしてきた。心臓はずっとパクパクしっぱなし。
グルグル、バクバク、パクパクしてる私の手を、自分の口からはずして、私にこう言った。
「俺の事嫌いか?」
絵:んこれな様
あまりにもまっすぐな瞳に脈がはねる。そんなの・・・決まってる。
「嫌いじゃない・・・よ?」
トラップの顔が近づいてくる。
うわわわっ。なに?なんなの?
「それって、俺の事・・・す・・・」
「ばっ・・・!!!ノル!押すなっ!!」
「うわぁあああ!!!」
ばったぁ
びっくりして振り返ると、そこには見慣れた顔の人垣が出来ていた。
「んなっ!?な、なにしてんのみんな!?」
でへへと笑いながらキットンが嬉しそうに、
「いやぁ、あんまりパステルが遅いもんですから、様子を見に来ただけですよ?」
と、悪びれることなく言った。
「全員で!?」
「ぐふふふ。それが、楽しそうな会話でしたから、声をかけるのが忍びなくてですね、つい。」
つい・・・。
もう、開いた口は塞がらない。開きっぱなしだ。
「き、聞いてたの
「はい。おめでとうございます。」
どっかぁ
私・・・きっと壊れたんだと思う。だって全身真っ赤で瞳は涙目だし、口はずっとパクパク・・・心臓もずっとうるさい。
「パステル。」
どきんっ!
首をギギギギギギ・・・と、軋ませて振り返る。
「返事は?俺の事、好きか?」
両目から涙が溢れてきて、私の感情と共に流れ落ちていった。
「だ・・・だっ・・・だい・・・」
「「「「「「だい?」」」」」」
「っ!!!!!大嫌いに決まってるでしょ
脱兎の如くとはこの事だ。気が付いたら庭にいた。
溢れ出てくる涙を必死にぬぐっても、止まらない。
もう!この涙はトラップのせいだ!バカバカバカ、バカトラップ!!
大きく息を吸い込んで、思いっきり空に叫ぶ。
「絶対、大っ嫌いっ!!」
おしまい。
二次小説部屋に戻る
《冒険者カード クレイ編》
「ねぇ、クレイ。冒険者カード見せてくれない?」
「え?別にいいけど?・・・はい。」
「ありがとー!」
「でも今さら冒険者カードなんか見て、どうするんだ?」
「ほら『冒険時代』の特集コーナーで、私の小説の登場人物を一人ずつ詳しく紹介するって言ってたでしょ?まずはリーダーのクレイからになったの。」
実は、なんと私が書いている小説が、かなり人気らしいのだ!
えへへへー。嬉しいよね。私もついに、作家らしくなってきたのかなぁ。
だってね、最近ファンレターの数が以前より、グンと増えていた。
その中には読者からの質問でよく、クレイの誕生日はいつですか?とか、トラップの身長は何センチですか?なんてよく聞かれるんだよね。
そんな話を印刷屋のご主人にすると、じゃあいっその事、全員の紹介を載せてみましょう!読者もきっと喜びますよ!と、話はとんとん拍子にすすんでいった。
でも私の小説ってほぼ、ノンフィクションでしょ?主人公は私、パステルだし他のメンバーもほとんどありのまま書いている。
だから夕べみんながそろった時に、雑誌に誕生日やイラスト(私が書くから似てないかも・・・)を載せても大丈夫かって事と、身長とかを測るのに協力してほしい、簡単なインタビューもさせてね。という話をしたんだけど・・・。
「・・・クレイ、もしかして忘れてた?」
おそるおそる私が聞くと、
「あはははは。そういえば、そんなこと言ってたよな。すっかり忘れてたよ。」
ごめん、ごめん。と笑いながらクレイは、頭をポリポリと掻いた。
するとソファで一人、ゴロンと横になっていたトラップが口を挟んできた。
「けっけっけっ。クレイちゃん、もうボケちゃったんじゃねぇーの?」
「ぼけてない!」
すばやいクレイの突っ込みとこぶしが飛んだけど、トラップはもちろん、ヒョイと避けてしまった。
「んもう。トラップはちょっと黙っててよね。」
私がクレイの冒険者カードを書き写しながら、ぴしゃりと言うと、クレイの横から「けっ!」と悪態をつく声が聞こえた。
「えーっと、体力が70で、カルマが・・・うわぁ!クレイのカルマ35だって!すごーい。さすがだねー。」
私が素直に褒めると、
「そうかなぁ?特に何もしてないんだけどなぁ?」
と首をかしげた。
あはは。クレイらしいよね!こういう所がカルマ35の所以だと思うんだ。
「ふむふむ・・・で、レベルがなな、と。本当にクレイ、ここ最近一気にレベルが上がったよね。」
ほんと私たちって冒険はいろいろしているのに、なかなかレベルは上がらないんだよね・・・。
とほほほほ・・・。
「ほっほー。クレイはレベル7ですか。さすがファイターですねぇ。」
キットンが鉛筆で頭をポリポリ掻きながら、こっちを見ていった。
うわあぁ・・・、汚いなあ。もう。
「でもよー、ルーミィ以外全員レベル5なのに、なんでファイターがレベル7な訳?一番率先して戦ってんのに、おかしくね?」
フテ寝していたはずのトラップが、体を起こしてこっちを向く。
「ふむ。確かに。トラップの言う通りです。なぜでしょうか?」
キットンもトラップの意見には賛成できるけど、納得が出来ないらしく、腕を組んでウーンと唸った。
「?????」
私には意味がわからない。
「なんで不思議なの?クレイ最近、すっごく強くなったと思うよ?あ。いや、前から強かったけどね。」
「ええ。クレイが強いのはみんな知ってますよ。でもそうじゃないんです。」
「だよな。なんでだ?」
トラップとキットンの言っている意味すらわからない私に、さらに意味不明な答えを返してきた。
強いけどそうじゃない?んん?どういう事なのー!?
私の頭が軽く、パニックになっていると、クレイがため息をついて
「それはきっと、昔の俺がモンスターを倒すのを躊躇ったり、逃げてばかりだったからだよ・・・。」
どよーん。と、明らかに落ち込んでしまった。
「ク、クレイ・・・。」
うっ。落ち込んじゃったじゃないー。
なんて声をかけるべきか、私が悩んでいると、
「ぎゃははははっ!クレイそれは間違ってます。」
キットンの馬鹿笑いに頭に響く。
「私とトラップが言ってるのは、そういう事じゃ無いんですよ。クレイが不甲斐無いだめだめファイターなら、我々他のパーティーのレベルが上がるわけ無いでしょう?」
そうでしょう?と念を押されて、私もクレイもノルもあいまいにうなずいた。『だめだめファイター』ってのが気になるけど・・・。
た、確かにそうかも。だってファイターが一番に逃げたりしたら、盗賊や詩人、ましてや農夫なんてクワ放りだして逃げ出しちゃうよね・・・。
納得した風の私たちを見て、キットンは続けた。
「クレイ、あなたのレベルが低い理由はひとつ!」
びしっ!と、クレイを指差す。おぉ!どこかの探偵みたいだよ、キットン!
「それはクレイ!あなたのクエスト不在率の高さですよ!!ぎゃはははははは!!!」
「・・・・・あ。」
「ぶふうっっ!!!」
「あああっ!!なるほど!」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」
見ると、クレイは口をポカーンと開けたまま、固まっている。
ノルは噴出し、私は思いっきり納得!トラップは案の定馬鹿ウケ。
「考えてみりゃ、解ることだよなー。うっひゃっひゃっひゃ!あー、腹いってぇ!」
「そうだよ!キットンの言うとおりだよ。ヒールニントの時はリズーにやられてお留守番だったし、JBのダンジョンではオウムだったよね!」
「ありましたねー。オウム!!」
「あぁ!あったなぁ、オウム!ひゃー。なつかしー!」
「誰のせいだ!誰の!!」
「くれー、とりさんだったおう!」
「そうデシ。オウムさんだったデシ。」
「・・・・・・・。」
「そういえば、俺の肩で寝てた・・・。」
「・・・・・・・。」
「あっはははは!クレイ、そんな顔しないでよ?ね?」
「だぁ !はらいて !」
「パーティ唯一のファイター不在で、ホワイトドラゴンとブラックドラゴンに会いに行くとか聞いた事ありませんよ!」
「そういえば、最近サラさんの奇跡の花を取りに行った時も、クレイ牢屋に捕まってて行けなかったもんね。」
「そうです!そうです!グリーンドラゴンに会った時も、クレイ不在でした!」
「うひょー!クレイちゃん不幸すぎて、俺、腹割れそーだ!」
「くれー、ふきょーすぎだおう!」
「本当デシ。クレイしゃん、かわいそうデシ。」
「・・・・・・・。」
「クレイ、囚人服の似合ってたから・・・。」
「ノル。もうこれ以上、何も言わないでくれ・・・。」
「いやー。クレイの不幸っぷりは、素晴らしいですね!ファイターのレベルは7ですが、不幸レベル30は行ってますよ。」
「レベル30って、ジュン・ケイさん並って事!?」
「レベル30!!最強じゃねーか!クレイ!!すっげぇー。」
「えー!?不幸レベル30のファイターって、強いのか弱いのかわかんないよね。あはははっ!」
もうみんな言いたい放題。
「その点我々は、ファイター抜きで3頭のドラゴンに会って無事なんですから、なんて幸運なんでしょう!!」
「「「おおおぉっ!!!」」」
「本当だー。すごいね、私達。」
「おいおい。不幸レベル30のお方を目の前にして、私達は幸運なんて言ってやるなよな。ぶっぷっぷぅ!だっせー。」
もうみんな、笑いのスイッチが入っちゃって、止まらなくなっていた。
ガタンッ!!
急に大きな音がして顔を上げると、クレイが無言で部屋を出て行ってしまった。
あーあ。怒っちゃったよね、クレイ。さすがに謝りに行かなきゃ。
そう思って椅子から立ち上がろうとすると、トラップに止められた。
「いいーって。しばらくほっといてやれよ。大丈夫、大丈夫。」
根拠ゼロの大丈夫なんですけど・・・。全然大丈夫そうじゃなかったよ?
クレイの心配よりも、新しいいたずらを思いついた顔で、トラップの顔は輝いている。
「それよりさー。パステル、雑誌に載せる時不幸レベル30って書いとけよ!」
「な!?バカ!書くわけ無いでしょ?何考えてんのよ!」
おバカな事を言うトラップにあわてて反論すると、
「いいじゃないですか。あくまでも小説の登場人物なんですから、多少のフィクションは許されると思いますよ?」
キットンに続いて、ノルまで言い出した。
「うん。まるまるその通りにしなくても、いいんじゃないかな。」
「れべうさんじゅ-う!れべうさんじゅ-う!」
「クレイしゃん、レベル30デシか?すごいデシ!」
よく解ってない1人と一匹。
「ほら、ノルもルーミィもシロも言ってるじゃねーか。作家には、ちょっとした遊び心も必要だってな。」
「何?それ。」
トラップの言い分はよくわかんないけど、たしかに多少のフィクションは面白いかも。うん。
「よし。じゃあ、書いちゃえ!」
メモ用紙に、不幸レベル30と書こうとすると、
「やめてくれ !!」
バッターン!と扉が開いて、クレイが真っ赤な顔で入ってきた。
あら。どっか行った訳じゃなかったのね。扉の向こうできいてたみたい。
「パステル!頼む!一生のお願いだから、書かないでくれっ!!」
両目に涙を浮かべながら、必死に懇願するクレイの横から、可愛い声がふたつ。
「ぱーるぅ。書かないんかぁ?」
「どうするデシ?」
「うーん、どうしようかなぁ。」
「頼む!この通りだ!パステル !!」
床に頭を擦り付け、土下座までして頼むクレイと、周りでニヤニヤ笑っているパーティ。
ぐるりと見渡して、私は決めた。
「面白いから、書いてみようかな。」
その瞬間、床に突っ伏したクレイを見て、トラップは得意げに、
「お。クレイの不幸レベルが1上がったぞ。」
「おお!それはめでたいですね。レベル31ですか。レベルアップおめでとうの歌でも歌いましょう。さあ、クレイもご一緒に。」
そう言って、キットンとトラップとルーミィとシロちゃんは、輪になって歌いだした。
「レベルアップーおめでとうー!
レベルアップーおめでとうー!
レベルアップーおめでとうぉー!
レベルアップーおめでとうー!」
1人打ちひしがれているクレイの肩をノルがポンポンと優しくたたくと、感動した様子で瞳を潤ませてクレイは、
「ノル・・・!ノルだけだ。俺の味方は!!」
ノルの手をしっかと握り返して、泣き出してしまった。そんなクレイに、ノルはいつもの優しい瞳のまま言った。
「クレイ。レベルアップ、おめでとう。」
その後クレイは一週間、パーティの誰とも口をきくことは無かった・・・。
おしまい。
戻る
「ねぇ、クレイ。冒険者カード見せてくれない?」
「え?別にいいけど?・・・はい。」
「ありがとー!」
「でも今さら冒険者カードなんか見て、どうするんだ?」
「ほら『冒険時代』の特集コーナーで、私の小説の登場人物を一人ずつ詳しく紹介するって言ってたでしょ?まずはリーダーのクレイからになったの。」
実は、なんと私が書いている小説が、かなり人気らしいのだ!
えへへへー。嬉しいよね。私もついに、作家らしくなってきたのかなぁ。
だってね、最近ファンレターの数が以前より、グンと増えていた。
その中には読者からの質問でよく、クレイの誕生日はいつですか?とか、トラップの身長は何センチですか?なんてよく聞かれるんだよね。
そんな話を印刷屋のご主人にすると、じゃあいっその事、全員の紹介を載せてみましょう!読者もきっと喜びますよ!と、話はとんとん拍子にすすんでいった。
でも私の小説ってほぼ、ノンフィクションでしょ?主人公は私、パステルだし他のメンバーもほとんどありのまま書いている。
だから夕べみんながそろった時に、雑誌に誕生日やイラスト(私が書くから似てないかも・・・)を載せても大丈夫かって事と、身長とかを測るのに協力してほしい、簡単なインタビューもさせてね。という話をしたんだけど・・・。
「・・・クレイ、もしかして忘れてた?」
おそるおそる私が聞くと、
「あはははは。そういえば、そんなこと言ってたよな。すっかり忘れてたよ。」
ごめん、ごめん。と笑いながらクレイは、頭をポリポリと掻いた。
するとソファで一人、ゴロンと横になっていたトラップが口を挟んできた。
「けっけっけっ。クレイちゃん、もうボケちゃったんじゃねぇーの?」
「ぼけてない!」
すばやいクレイの突っ込みとこぶしが飛んだけど、トラップはもちろん、ヒョイと避けてしまった。
「んもう。トラップはちょっと黙っててよね。」
私がクレイの冒険者カードを書き写しながら、ぴしゃりと言うと、クレイの横から「けっ!」と悪態をつく声が聞こえた。
「えーっと、体力が70で、カルマが・・・うわぁ!クレイのカルマ35だって!すごーい。さすがだねー。」
私が素直に褒めると、
「そうかなぁ?特に何もしてないんだけどなぁ?」
と首をかしげた。
あはは。クレイらしいよね!こういう所がカルマ35の所以だと思うんだ。
「ふむふむ・・・で、レベルがなな、と。本当にクレイ、ここ最近一気にレベルが上がったよね。」
ほんと私たちって冒険はいろいろしているのに、なかなかレベルは上がらないんだよね・・・。
とほほほほ・・・。
「ほっほー。クレイはレベル7ですか。さすがファイターですねぇ。」
キットンが鉛筆で頭をポリポリ掻きながら、こっちを見ていった。
うわあぁ・・・、汚いなあ。もう。
「でもよー、ルーミィ以外全員レベル5なのに、なんでファイターがレベル7な訳?一番率先して戦ってんのに、おかしくね?」
フテ寝していたはずのトラップが、体を起こしてこっちを向く。
「ふむ。確かに。トラップの言う通りです。なぜでしょうか?」
キットンもトラップの意見には賛成できるけど、納得が出来ないらしく、腕を組んでウーンと唸った。
「?????」
私には意味がわからない。
「なんで不思議なの?クレイ最近、すっごく強くなったと思うよ?あ。いや、前から強かったけどね。」
「ええ。クレイが強いのはみんな知ってますよ。でもそうじゃないんです。」
「だよな。なんでだ?」
トラップとキットンの言っている意味すらわからない私に、さらに意味不明な答えを返してきた。
強いけどそうじゃない?んん?どういう事なのー!?
私の頭が軽く、パニックになっていると、クレイがため息をついて
「それはきっと、昔の俺がモンスターを倒すのを躊躇ったり、逃げてばかりだったからだよ・・・。」
どよーん。と、明らかに落ち込んでしまった。
「ク、クレイ・・・。」
うっ。落ち込んじゃったじゃないー。
なんて声をかけるべきか、私が悩んでいると、
「ぎゃははははっ!クレイそれは間違ってます。」
キットンの馬鹿笑いに頭に響く。
「私とトラップが言ってるのは、そういう事じゃ無いんですよ。クレイが不甲斐無いだめだめファイターなら、我々他のパーティーのレベルが上がるわけ無いでしょう?」
そうでしょう?と念を押されて、私もクレイもノルもあいまいにうなずいた。『だめだめファイター』ってのが気になるけど・・・。
た、確かにそうかも。だってファイターが一番に逃げたりしたら、盗賊や詩人、ましてや農夫なんてクワ放りだして逃げ出しちゃうよね・・・。
納得した風の私たちを見て、キットンは続けた。
「クレイ、あなたのレベルが低い理由はひとつ!」
びしっ!と、クレイを指差す。おぉ!どこかの探偵みたいだよ、キットン!
「それはクレイ!あなたのクエスト不在率の高さですよ!!ぎゃはははははは!!!」
「・・・・・あ。」
「ぶふうっっ!!!」
「あああっ!!なるほど!」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」
見ると、クレイは口をポカーンと開けたまま、固まっている。
ノルは噴出し、私は思いっきり納得!トラップは案の定馬鹿ウケ。
「考えてみりゃ、解ることだよなー。うっひゃっひゃっひゃ!あー、腹いってぇ!」
「そうだよ!キットンの言うとおりだよ。ヒールニントの時はリズーにやられてお留守番だったし、JBのダンジョンではオウムだったよね!」
「ありましたねー。オウム!!」
「あぁ!あったなぁ、オウム!ひゃー。なつかしー!」
「誰のせいだ!誰の!!」
「くれー、とりさんだったおう!」
「そうデシ。オウムさんだったデシ。」
「・・・・・・・。」
「そういえば、俺の肩で寝てた・・・。」
「・・・・・・・。」
「あっはははは!クレイ、そんな顔しないでよ?ね?」
「だぁ
「パーティ唯一のファイター不在で、ホワイトドラゴンとブラックドラゴンに会いに行くとか聞いた事ありませんよ!」
「そういえば、最近サラさんの奇跡の花を取りに行った時も、クレイ牢屋に捕まってて行けなかったもんね。」
「そうです!そうです!グリーンドラゴンに会った時も、クレイ不在でした!」
「うひょー!クレイちゃん不幸すぎて、俺、腹割れそーだ!」
「くれー、ふきょーすぎだおう!」
「本当デシ。クレイしゃん、かわいそうデシ。」
「・・・・・・・。」
「クレイ、囚人服の似合ってたから・・・。」
「ノル。もうこれ以上、何も言わないでくれ・・・。」
「いやー。クレイの不幸っぷりは、素晴らしいですね!ファイターのレベルは7ですが、不幸レベル30は行ってますよ。」
「レベル30って、ジュン・ケイさん並って事!?」
「レベル30!!最強じゃねーか!クレイ!!すっげぇー。」
「えー!?不幸レベル30のファイターって、強いのか弱いのかわかんないよね。あはははっ!」
もうみんな言いたい放題。
「その点我々は、ファイター抜きで3頭のドラゴンに会って無事なんですから、なんて幸運なんでしょう!!」
「「「おおおぉっ!!!」」」
「本当だー。すごいね、私達。」
「おいおい。不幸レベル30のお方を目の前にして、私達は幸運なんて言ってやるなよな。ぶっぷっぷぅ!だっせー。」
もうみんな、笑いのスイッチが入っちゃって、止まらなくなっていた。
ガタンッ!!
急に大きな音がして顔を上げると、クレイが無言で部屋を出て行ってしまった。
あーあ。怒っちゃったよね、クレイ。さすがに謝りに行かなきゃ。
そう思って椅子から立ち上がろうとすると、トラップに止められた。
「いいーって。しばらくほっといてやれよ。大丈夫、大丈夫。」
根拠ゼロの大丈夫なんですけど・・・。全然大丈夫そうじゃなかったよ?
クレイの心配よりも、新しいいたずらを思いついた顔で、トラップの顔は輝いている。
「それよりさー。パステル、雑誌に載せる時不幸レベル30って書いとけよ!」
「な!?バカ!書くわけ無いでしょ?何考えてんのよ!」
おバカな事を言うトラップにあわてて反論すると、
「いいじゃないですか。あくまでも小説の登場人物なんですから、多少のフィクションは許されると思いますよ?」
キットンに続いて、ノルまで言い出した。
「うん。まるまるその通りにしなくても、いいんじゃないかな。」
「れべうさんじゅ-う!れべうさんじゅ-う!」
「クレイしゃん、レベル30デシか?すごいデシ!」
よく解ってない1人と一匹。
「ほら、ノルもルーミィもシロも言ってるじゃねーか。作家には、ちょっとした遊び心も必要だってな。」
「何?それ。」
トラップの言い分はよくわかんないけど、たしかに多少のフィクションは面白いかも。うん。
「よし。じゃあ、書いちゃえ!」
メモ用紙に、不幸レベル30と書こうとすると、
「やめてくれ
バッターン!と扉が開いて、クレイが真っ赤な顔で入ってきた。
あら。どっか行った訳じゃなかったのね。扉の向こうできいてたみたい。
「パステル!頼む!一生のお願いだから、書かないでくれっ!!」
両目に涙を浮かべながら、必死に懇願するクレイの横から、可愛い声がふたつ。
「ぱーるぅ。書かないんかぁ?」
「どうするデシ?」
「うーん、どうしようかなぁ。」
「頼む!この通りだ!パステル
床に頭を擦り付け、土下座までして頼むクレイと、周りでニヤニヤ笑っているパーティ。
ぐるりと見渡して、私は決めた。
「面白いから、書いてみようかな。」
その瞬間、床に突っ伏したクレイを見て、トラップは得意げに、
「お。クレイの不幸レベルが1上がったぞ。」
「おお!それはめでたいですね。レベル31ですか。レベルアップおめでとうの歌でも歌いましょう。さあ、クレイもご一緒に。」
そう言って、キットンとトラップとルーミィとシロちゃんは、輪になって歌いだした。
「レベルアップーおめでとうー!
レベルアップーおめでとうー!
レベルアップーおめでとうぉー!
レベルアップーおめでとうー!」
1人打ちひしがれているクレイの肩をノルがポンポンと優しくたたくと、感動した様子で瞳を潤ませてクレイは、
「ノル・・・!ノルだけだ。俺の味方は!!」
ノルの手をしっかと握り返して、泣き出してしまった。そんなクレイに、ノルはいつもの優しい瞳のまま言った。
「クレイ。レベルアップ、おめでとう。」
その後クレイは一週間、パーティの誰とも口をきくことは無かった・・・。
おしまい。
戻る
《冒険者カード トラップ編》
あれー?
トラップってば、どこに行っちゃったんだろう。
昨日あれだけ「今日は家にいてね。」って、念を押したのにまさか、出掛けたんじゃないでしょうね!?
おっと、こんにちは。パステルです。
実は今日は、この間のクレイに引き続き、トラップの取材をさせてもらう予定なのね。
絶対、部屋で寝てるんだと思って覗いたのに、部屋はもぬけの殻。
家の中も静かだし、もしかして誰もいないのかなぁ。
下に降りてみると、話し声が聞こえてきた。
この声はキットンだ。トラップの声もする。なーんだ、ダイニングにいたのね。
ダイニングを覗くと、二人で朝ごはんを食べていたらしい。
「トラップ、ごはん食べ終わった?」
「んあ?今終わったとこ。」
コーヒーを一口飲んで、「ごっそさん。」と席を立とうとしているから慌てる。
「ちょっと待って、このままでいいから取材させてくれない?」
慌ててトラップを引き止めると、ニヤリと笑って、「1000G!」と手のひらをヒラヒラさせた。
こ、こいつはー。出された手のひらをバチンッと叩いて、
「はい。私の感謝の気持ちよ。受け取って!」
というと、
「ぎゃははは。それは受け取っとかないと後悔しますね。1000G以上の価値がありますよ。トラップには。」
キットンは笑いながら「感謝は余計ですけどねー。」と言った。
どう言う事?感謝の気持ちがいらないって事?私1人が首をかしげていると、
「・・・ふん。で、するならちゃっちゃとインタビューしろよ。しねえなら、俺は寝るぞ。」
なんてトラップが言うもんだから、また慌てる。
「します。やりますとも!」
改めて3人席に着く。何でキットンも座ってるのか解らないけど・・・ま、邪魔しないならいいや。
「じゃあ早速、冒険者カード見せてくれる?」
私がお願いすると、首にさげていた冒険者カードを投げてよこした。
「えーっと、職業は盗賊・・・」
「おまっ!ばっかじゃねぇーの?そんなの見なくってもわかんだろーが!」
あったま悪いんじゃねぇ?なんて言いながら、人差し指を頭の横でくるくる回してパアにした。
カチン!こいつはバカにしよって!
「あのねー。一応確認してるの!もしかしたらあんたの事だから、盗賊兼ギャンブラーとかになってるかもしれないでしょ!?」
もちろん冗談のつもりだけど、トラップならありえるかもしれない。
「ぶっはははは!パステル、それより盗賊兼トラブルメーカーなんてどうですか?」
「いい!いいね、それ!ぴったりだよ!」
私とキットンが二人で盛り上がっていると、
「お前と一緒にすんじゃねぇー!」と、ポカリと叩かれた。
「いったーい。もう。叩かなくてもいいでしょー?でもさぁ、もしもあと一つ職業が選べるんだったら、トラップは何がいい?」
思わず興味が沸いてトラップに聞くと、きっぱりと言われた。
「ない。」
あまりの即答に思わず聞き返す。
「え?ないの?何にも?」
「ああ。ないな。」
何度聞いても、無いと答えるトラップに私はびっくりした。
私だったらやりたい職業いっぱいあるのになぁ。
魔法使いとかレンジャーなんかもカッコイイよね。ま、あくまでも『出来るなら』が大前提だけどね。
でもトラップは盗賊以外になりたいものは無いという。
それって、凄いことなんじゃ・・・。
「ねぇ、本当にないの?例えば魔法使いとかさ。」
しつこく確認すると案の定、しつこいぞと言う顔をされた。
「ないったらない。俺の職業は今までもこれからも盗賊だけだ。一人前の盗賊になる為なら、どんな辛い修行にも耐えてやる。この仕事では誰にも負けたくねぇからな。俺はこの仕事が好きで、誇りを持ってやってる。だから他のものに手ぇ出す余裕なんかねぇよ。おめぇも知ってるだろ?」
「「・・・・・・・・。」」
私もキットンも、トラップの言葉に感動していた。
「・・・すごいっ!トラップかっこいいよ!私感動しちゃった!」
「私もです。トラップの言葉なんかに、鳥肌が立ってしまいました。」
「トラップの言葉なんかにってどう言う事だよ!?」
次はキットンがボカッと殴られる番だった。でもあれ、きっと照れ隠しだよね。ふふ。
でもね、私は本当に感動した反面、自分のことが凄く恥ずかしくなって、下を向いてしまった・・・。
なんとなく、トラップに合わせる顔が無い気がして。
だって自分の仕事もちゃんと出来て無いのに、あれやりたい、これやりたいとか思ってたわけでしょ?私は。
トラップみたいな真剣さが私には、全然足りてない証拠だ。
詩人もマッパーもクロスボウだって、もっと努力するべき所が沢山あるのに目移りばかりしてるなんて、とても今の仕事を一生懸命頑張ってます!なんて口が裂けてもトラップには言えないよね・・・・。
まずは自分のするべき事をきちんとしてからだ。ってトラップに言われた気がする。
やっぱり凄いなトラップは。
私もいつかトラップの様に「私の職業は詩人兼マッパーです!」って言えるようになりたいと思った。
うん。今から頑張っても遅くないよね。最近、マッピングの勉強もおろそかだったし、またトラップに付き合ってもらおう。文句は言われるかもしれないけどね。
そう心に決めて顔を上げると、トラップと目が合った。
一瞬、驚いた顔をしたトラップだけど、次の瞬間には、ニッ。と笑っていた。
なんだろ・・・。私の思考が完全に読まれてる気がするんですけど・・・?
なんかくやしいなぁ。あの笑顔、「お前、単純だな。」って言われてる気がする。
くそー。どうせ単純ですよーだ!
いーだ!私がそんな顔をしていると、
「ぶっ。お前魔法使いになりたいのかよ。」
と笑われた。
きぃ !くーやーしーいー!
顔を真っ赤にさせて
「いいじゃん、別に夢見るくらい!トラップも魔法使えたらいいな、とか思うでしょ?」
必死に反論すると、
「俺、魔力あるから興味ねぇし。」
ガ ン。そうだった、魔力あるんだよねトラップには。
この間もマジックアイテム使ってたしいいなぁ。
くそう、羨ましいぞ!
「じゃあ、もし職業が『盗賊兼マッパー探し』だったらどうします?それでも盗賊のみだって言い切れますか?」
今まで静かだったキットンの質問に、私もトラップも思考が止まる。
ナンデスカ、ソノ職業ハ・・・。
はっと我に帰る。
「ちょっとキットン。何のなのよその職業は!?っていうか、職業じゃないでしょそれ!」
「そうでしょうか?パステル、あなたはいつも誰に助けて貰っているのですか?しかも1度や2度じゃありませんよ。これはもう、立派にトラップの仕事です。違いますか?」
ぐっ・・・!!反論できない。キットンの言ってる事は正しい。正しい・・・けど!
「ちょっと、トラップも黙ってないで何か言ってよ!そんな職業いやでしょう?」
トラップの体をゆっさゆっさ揺らすと、いきなり
「ぶっ!ぶわっはははは!!なるほどなー。キットンの言う通りだ。いいぜ俺の職業、盗賊兼マッパー探しで。」
なんて言い出すではないか!
「やだやだやだ!私かっこ悪すぎるじゃん!!」
私どれだけ迷子になってるのよ。・・・いや実際そうなんだけど、でもいやだ!
トラップもトラップだ。盗賊の仕事に誇りを持ってやってる!他には手を出さない。なんてかっこいい事言ったばかりなんだから、頑張って貫き通してよね!
しかもこの世界のどこに、好きで『マッパー探し』なんて仕事をするやつがいるのよー!?
「ではパステル、雑誌掲載時には盗賊兼マッパー探しでお願いしますよ。」
「そうだな、クレイが不幸レベル31なら、俺もそのくらいのフィクションは許してやるぜ?」
キットンもトラップもニヤニヤしながらこっちを見てる。
もうっ!せっかくトラップの事、見直したのに、前言撤回!
「あ。そうそう、大事な事を忘れるところでした。パステル、あなたの職業欄には必ず、詩人兼マッパー兼迷子と記載してくださいね。じゃないと、トラップが職にあぶれてしまいますから。」
キットンが、いかにも重大事項のように落ち着き払って言った。
トラップもウンウン、うなずいている。私はやけくそで叫んでやった。
「私の迷子は仕事じゃないもん!特技だもん!!」
このあと二人には散々バカにされたけど、なんでだろう。
トラップの職業『盗賊兼マッパー探し』が、妙に当てはまると言うか、しっくりくる気がするのは、私の気のせいなのかなぁ・・・?
おしまい。
戻る
あれー?
トラップってば、どこに行っちゃったんだろう。
昨日あれだけ「今日は家にいてね。」って、念を押したのにまさか、出掛けたんじゃないでしょうね!?
おっと、こんにちは。パステルです。
実は今日は、この間のクレイに引き続き、トラップの取材をさせてもらう予定なのね。
絶対、部屋で寝てるんだと思って覗いたのに、部屋はもぬけの殻。
家の中も静かだし、もしかして誰もいないのかなぁ。
下に降りてみると、話し声が聞こえてきた。
この声はキットンだ。トラップの声もする。なーんだ、ダイニングにいたのね。
ダイニングを覗くと、二人で朝ごはんを食べていたらしい。
「トラップ、ごはん食べ終わった?」
「んあ?今終わったとこ。」
コーヒーを一口飲んで、「ごっそさん。」と席を立とうとしているから慌てる。
「ちょっと待って、このままでいいから取材させてくれない?」
慌ててトラップを引き止めると、ニヤリと笑って、「1000G!」と手のひらをヒラヒラさせた。
こ、こいつはー。出された手のひらをバチンッと叩いて、
「はい。私の感謝の気持ちよ。受け取って!」
というと、
「ぎゃははは。それは受け取っとかないと後悔しますね。1000G以上の価値がありますよ。トラップには。」
キットンは笑いながら「感謝は余計ですけどねー。」と言った。
どう言う事?感謝の気持ちがいらないって事?私1人が首をかしげていると、
「・・・ふん。で、するならちゃっちゃとインタビューしろよ。しねえなら、俺は寝るぞ。」
なんてトラップが言うもんだから、また慌てる。
「します。やりますとも!」
改めて3人席に着く。何でキットンも座ってるのか解らないけど・・・ま、邪魔しないならいいや。
「じゃあ早速、冒険者カード見せてくれる?」
私がお願いすると、首にさげていた冒険者カードを投げてよこした。
「えーっと、職業は盗賊・・・」
「おまっ!ばっかじゃねぇーの?そんなの見なくってもわかんだろーが!」
あったま悪いんじゃねぇ?なんて言いながら、人差し指を頭の横でくるくる回してパアにした。
カチン!こいつはバカにしよって!
「あのねー。一応確認してるの!もしかしたらあんたの事だから、盗賊兼ギャンブラーとかになってるかもしれないでしょ!?」
もちろん冗談のつもりだけど、トラップならありえるかもしれない。
「ぶっはははは!パステル、それより盗賊兼トラブルメーカーなんてどうですか?」
「いい!いいね、それ!ぴったりだよ!」
私とキットンが二人で盛り上がっていると、
「お前と一緒にすんじゃねぇー!」と、ポカリと叩かれた。
「いったーい。もう。叩かなくてもいいでしょー?でもさぁ、もしもあと一つ職業が選べるんだったら、トラップは何がいい?」
思わず興味が沸いてトラップに聞くと、きっぱりと言われた。
「ない。」
あまりの即答に思わず聞き返す。
「え?ないの?何にも?」
「ああ。ないな。」
何度聞いても、無いと答えるトラップに私はびっくりした。
私だったらやりたい職業いっぱいあるのになぁ。
魔法使いとかレンジャーなんかもカッコイイよね。ま、あくまでも『出来るなら』が大前提だけどね。
でもトラップは盗賊以外になりたいものは無いという。
それって、凄いことなんじゃ・・・。
「ねぇ、本当にないの?例えば魔法使いとかさ。」
しつこく確認すると案の定、しつこいぞと言う顔をされた。
「ないったらない。俺の職業は今までもこれからも盗賊だけだ。一人前の盗賊になる為なら、どんな辛い修行にも耐えてやる。この仕事では誰にも負けたくねぇからな。俺はこの仕事が好きで、誇りを持ってやってる。だから他のものに手ぇ出す余裕なんかねぇよ。おめぇも知ってるだろ?」
「「・・・・・・・・。」」
私もキットンも、トラップの言葉に感動していた。
「・・・すごいっ!トラップかっこいいよ!私感動しちゃった!」
「私もです。トラップの言葉なんかに、鳥肌が立ってしまいました。」
「トラップの言葉なんかにってどう言う事だよ!?」
次はキットンがボカッと殴られる番だった。でもあれ、きっと照れ隠しだよね。ふふ。
でもね、私は本当に感動した反面、自分のことが凄く恥ずかしくなって、下を向いてしまった・・・。
なんとなく、トラップに合わせる顔が無い気がして。
だって自分の仕事もちゃんと出来て無いのに、あれやりたい、これやりたいとか思ってたわけでしょ?私は。
トラップみたいな真剣さが私には、全然足りてない証拠だ。
詩人もマッパーもクロスボウだって、もっと努力するべき所が沢山あるのに目移りばかりしてるなんて、とても今の仕事を一生懸命頑張ってます!なんて口が裂けてもトラップには言えないよね・・・・。
まずは自分のするべき事をきちんとしてからだ。ってトラップに言われた気がする。
やっぱり凄いなトラップは。
私もいつかトラップの様に「私の職業は詩人兼マッパーです!」って言えるようになりたいと思った。
うん。今から頑張っても遅くないよね。最近、マッピングの勉強もおろそかだったし、またトラップに付き合ってもらおう。文句は言われるかもしれないけどね。
そう心に決めて顔を上げると、トラップと目が合った。
一瞬、驚いた顔をしたトラップだけど、次の瞬間には、ニッ。と笑っていた。
なんだろ・・・。私の思考が完全に読まれてる気がするんですけど・・・?
なんかくやしいなぁ。あの笑顔、「お前、単純だな。」って言われてる気がする。
くそー。どうせ単純ですよーだ!
いーだ!私がそんな顔をしていると、
「ぶっ。お前魔法使いになりたいのかよ。」
と笑われた。
きぃ
顔を真っ赤にさせて
「いいじゃん、別に夢見るくらい!トラップも魔法使えたらいいな、とか思うでしょ?」
必死に反論すると、
「俺、魔力あるから興味ねぇし。」
ガ
この間もマジックアイテム使ってたしいいなぁ。
くそう、羨ましいぞ!
「じゃあ、もし職業が『盗賊兼マッパー探し』だったらどうします?それでも盗賊のみだって言い切れますか?」
今まで静かだったキットンの質問に、私もトラップも思考が止まる。
ナンデスカ、ソノ職業ハ・・・。
はっと我に帰る。
「ちょっとキットン。何のなのよその職業は!?っていうか、職業じゃないでしょそれ!」
「そうでしょうか?パステル、あなたはいつも誰に助けて貰っているのですか?しかも1度や2度じゃありませんよ。これはもう、立派にトラップの仕事です。違いますか?」
ぐっ・・・!!反論できない。キットンの言ってる事は正しい。正しい・・・けど!
「ちょっと、トラップも黙ってないで何か言ってよ!そんな職業いやでしょう?」
トラップの体をゆっさゆっさ揺らすと、いきなり
「ぶっ!ぶわっはははは!!なるほどなー。キットンの言う通りだ。いいぜ俺の職業、盗賊兼マッパー探しで。」
なんて言い出すではないか!
「やだやだやだ!私かっこ悪すぎるじゃん!!」
私どれだけ迷子になってるのよ。・・・いや実際そうなんだけど、でもいやだ!
トラップもトラップだ。盗賊の仕事に誇りを持ってやってる!他には手を出さない。なんてかっこいい事言ったばかりなんだから、頑張って貫き通してよね!
しかもこの世界のどこに、好きで『マッパー探し』なんて仕事をするやつがいるのよー!?
「ではパステル、雑誌掲載時には盗賊兼マッパー探しでお願いしますよ。」
「そうだな、クレイが不幸レベル31なら、俺もそのくらいのフィクションは許してやるぜ?」
キットンもトラップもニヤニヤしながらこっちを見てる。
もうっ!せっかくトラップの事、見直したのに、前言撤回!
「あ。そうそう、大事な事を忘れるところでした。パステル、あなたの職業欄には必ず、詩人兼マッパー兼迷子と記載してくださいね。じゃないと、トラップが職にあぶれてしまいますから。」
キットンが、いかにも重大事項のように落ち着き払って言った。
トラップもウンウン、うなずいている。私はやけくそで叫んでやった。
「私の迷子は仕事じゃないもん!特技だもん!!」
このあと二人には散々バカにされたけど、なんでだろう。
トラップの職業『盗賊兼マッパー探し』が、妙に当てはまると言うか、しっくりくる気がするのは、私の気のせいなのかなぁ・・・?
おしまい。
戻る
《振り向いて!》
「ねぇ!笑顔が素敵な彼女!」
「・・・・・・・。」
「あのー、そこの可愛いお嬢さん。」
「・・・・・・・。」
「おいっ!方向音痴のマッパー!!」
「えぇっ!?私!?」
「ふん。・・・もういい。」
「え、何?ちょっとトラップー!?」
「・・・・・・・・。」
「どうしたの?用だった?」
「・・・・・・・・。」
「・・・世界一口が悪くって、ギャンブル好きのトラブルメーカーで・・・」
「・・・おめぇ、ケンカ売ってんの?」
「けど、盗賊の腕はピカイチで交渉上手、いつでも私を見つけ出してくれる、頼りになるかっこいい盗賊さん。」
「・・・なんだよ。」
「ふふ。大好きだよ!トラップ!!」
「!!なっ!おまっ・・・!?ばっ//////」
めでたし、めでたし。
戻る
「ねぇ!笑顔が素敵な彼女!」
「・・・・・・・。」
「あのー、そこの可愛いお嬢さん。」
「・・・・・・・。」
「おいっ!方向音痴のマッパー!!」
「えぇっ!?私!?」
「ふん。・・・もういい。」
「え、何?ちょっとトラップー!?」
「・・・・・・・・。」
「どうしたの?用だった?」
「・・・・・・・・。」
「・・・世界一口が悪くって、ギャンブル好きのトラブルメーカーで・・・」
「・・・おめぇ、ケンカ売ってんの?」
「けど、盗賊の腕はピカイチで交渉上手、いつでも私を見つけ出してくれる、頼りになるかっこいい盗賊さん。」
「・・・なんだよ。」
「ふふ。大好きだよ!トラップ!!」
「!!なっ!おまっ・・・!?ばっ//////」
めでたし、めでたし。
戻る
《真夜中の散歩》
満月の月明かりの中に伸びる、2人の影。
時間は夜中になっていた。さすがに、こんな時間に散歩している人はいない。
私とトラップは、お互いが聞き取れるくらいの大きさの声でしゃべっていた。
だって時間が時間だからね。
村の中を抜けて村の外に出る。私はトラップに連れられて、小高い丘に来た。
「すっごーい!月が綺麗だし、明るいね。」
そう言って私が腰を下ろすと、トラップも隣に座った。
「ん。・・・そうだな。・・・・。」
カンテラを持たずに出た私たちだったけど、お互いの顔くらいははっきり見える。そんな月明かり。
普段こんな時間に外に出ないでしょう?しかもトラップも一緒だから迷子の心配もないしね。
あははっ。
私はすっごく楽しくって、ニコニコしっぱなし。
さっきからいろいろトラップに話しかけるんだけど、・・・なんだかトラップってば変。
やけに口数が少ない。
「どうしたの?トラップ。具合悪いの?」
さっきまでは普通だったのに、一体どうしたんだろう?急に心配になってきた。
「なんでもねーよ。」
「本当に?しんどかったら、家に帰ってもいいよ?」
私が聞いても「大丈夫だから。」の一点張りだし・・・。
うーん。ま、いっか。本当にどこか悪かったら彼の事だ、ちゃんと言うだろう。
私は気を取り直して、改めて満月の夜空を見上げる。
夜空の中で満月の存在は、かなり大きく見えた。
そう言えばキットンが、「今夜は十五夜ですね。」って言ってた気がする。
ぼーっと月を見上げてる私のほっぺたに、突然何かが触れた。
びっくりして振り向くと、トラップがこっちを見つめている。
つまり私のほっぺに触れているものは、トラップの長くて綺麗な指だった。
「??トラップ・・・?」
どうしたんだろう。やっぱりトラップ、変だよね。
「・・・おめぇ、俺がこの前言った事、全然解ってねぇな。」
いきなりそんな事を言われても、なにがなんだかさっぱり解らない。
「この前・・・?」
首をかしげて考える。はて、何の事?
そんな私を見て深いため息をついたかと思うと、伸ばしたままの手をあごまで下げて、
「俺はちゃんと忠告した。忘れたおめぇが悪い。」
そう言ったかと思うと、トラップの顔がだんだん近づいてくる。
「トラ・・・?」
どうしてトラップの顔がこんなに近いんだろう・・・。
「キスしてもいいか?」
どきんっ!!
顔がボッと一気に熱くなる。
「なっ!?キス・・・って!?」
今トラップ、私に「キスしてもいいか?」って聞いたのよね!?私の聞き間違い・・・じゃないよね?
頭の中でトラップのセリフをリフレインする度に、どんどん体が熱くなる。
「イエスか、ノーか。5秒以内に返事。」
月明かりに照らされたトラップの顔は、かっこよかった。
私、トラップとキスするの?
まっすぐに私を見つめてくるトラップの瞳をまっすぐに見つめ返して、私の中から湧き上がった素直な感情。
トラップとキスしたい。
そう思った瞬間、目を閉じた。
「時間切れ。」
ふっ、と息がかかったかと思うと、次の瞬間には唇が触れていた。
あぁ。心が通ったキスってすっごく幸せなんだ。
触れた時と同じくらいの優しさで離れていった唇。
目を開けると少し不安そうなトラップの顔があった。
「大丈夫。私も同じだから。」
そう言ってにっこり笑うと、今度はさっきよりもトラップの感情が強く流れてくるキスだった。
私の中からも強く溢れ出てくるこの感情はきっと、特別な『愛しさ』なんだろう。
空に浮かんだ満月は静かに、沈み始めていた。
おしまい。
戻る
満月の月明かりの中に伸びる、2人の影。
時間は夜中になっていた。さすがに、こんな時間に散歩している人はいない。
私とトラップは、お互いが聞き取れるくらいの大きさの声でしゃべっていた。
だって時間が時間だからね。
村の中を抜けて村の外に出る。私はトラップに連れられて、小高い丘に来た。
「すっごーい!月が綺麗だし、明るいね。」
そう言って私が腰を下ろすと、トラップも隣に座った。
「ん。・・・そうだな。・・・・。」
カンテラを持たずに出た私たちだったけど、お互いの顔くらいははっきり見える。そんな月明かり。
普段こんな時間に外に出ないでしょう?しかもトラップも一緒だから迷子の心配もないしね。
あははっ。
私はすっごく楽しくって、ニコニコしっぱなし。
さっきからいろいろトラップに話しかけるんだけど、・・・なんだかトラップってば変。
やけに口数が少ない。
「どうしたの?トラップ。具合悪いの?」
さっきまでは普通だったのに、一体どうしたんだろう?急に心配になってきた。
「なんでもねーよ。」
「本当に?しんどかったら、家に帰ってもいいよ?」
私が聞いても「大丈夫だから。」の一点張りだし・・・。
うーん。ま、いっか。本当にどこか悪かったら彼の事だ、ちゃんと言うだろう。
私は気を取り直して、改めて満月の夜空を見上げる。
夜空の中で満月の存在は、かなり大きく見えた。
そう言えばキットンが、「今夜は十五夜ですね。」って言ってた気がする。
ぼーっと月を見上げてる私のほっぺたに、突然何かが触れた。
びっくりして振り向くと、トラップがこっちを見つめている。
つまり私のほっぺに触れているものは、トラップの長くて綺麗な指だった。
「??トラップ・・・?」
どうしたんだろう。やっぱりトラップ、変だよね。
「・・・おめぇ、俺がこの前言った事、全然解ってねぇな。」
いきなりそんな事を言われても、なにがなんだかさっぱり解らない。
「この前・・・?」
首をかしげて考える。はて、何の事?
そんな私を見て深いため息をついたかと思うと、伸ばしたままの手をあごまで下げて、
「俺はちゃんと忠告した。忘れたおめぇが悪い。」
そう言ったかと思うと、トラップの顔がだんだん近づいてくる。
「トラ・・・?」
どうしてトラップの顔がこんなに近いんだろう・・・。
「キスしてもいいか?」
どきんっ!!
顔がボッと一気に熱くなる。
「なっ!?キス・・・って!?」
今トラップ、私に「キスしてもいいか?」って聞いたのよね!?私の聞き間違い・・・じゃないよね?
頭の中でトラップのセリフをリフレインする度に、どんどん体が熱くなる。
「イエスか、ノーか。5秒以内に返事。」
月明かりに照らされたトラップの顔は、かっこよかった。
私、トラップとキスするの?
まっすぐに私を見つめてくるトラップの瞳をまっすぐに見つめ返して、私の中から湧き上がった素直な感情。
トラップとキスしたい。
そう思った瞬間、目を閉じた。
「時間切れ。」
ふっ、と息がかかったかと思うと、次の瞬間には唇が触れていた。
あぁ。心が通ったキスってすっごく幸せなんだ。
触れた時と同じくらいの優しさで離れていった唇。
目を開けると少し不安そうなトラップの顔があった。
「大丈夫。私も同じだから。」
そう言ってにっこり笑うと、今度はさっきよりもトラップの感情が強く流れてくるキスだった。
私の中からも強く溢れ出てくるこの感情はきっと、特別な『愛しさ』なんだろう。
空に浮かんだ満月は静かに、沈み始めていた。
おしまい。
戻る
《いつも君をフレームイン!》
倒しても倒しても、どこからか溢れ出てくる目の前の敵に集中してる時だった。
「パステル!後ろっ!!」
後ろからの叫び声に振り向きかけたその瞬間、ビシッとパチンコが命中した音が聞こえたかと思うと、
「ギュウウウウゥン!」
私の耳元で、黒トカゲ戦士の悲鳴が響く。
びっくりして振り向くと、私に恐ろしい牙を向けて、倒れこんでくるところだった。
「きゃああああー!!」
潰されるっ。
ダメだと解っていたのに、思わず目を瞑ってしまった。
その瞬間、
「ばかっ!しっかりっ目ぇ開けてろ!!」
ぐいっと腕を引かれて、倒れ掛かってくる黒トカゲ戦士から助け出してくれたのは、さっきから何度も私を叱責してくれているトラップだった。
「あ、ありがとうトラップ。」
お礼を言う私に容赦ない言葉が飛ぶ。
「お前さっきから見てりゃ、背中が隙だらけなんだよ!」
そう言いながらも、次々と襲ってくるモンスターにパチンコを打ち込んでいく。
すごいっ!!
・・・なんて、のんびり眺めてる場合じゃ無かった!私も目の前の敵、スネークフライに集中する。
トラップと背中合わせになりながら敵を倒していく。
すると突然、背中から
「つっ・・・!!」
トラップのうめき声が聞こえて慌てて振り返る。
「トラップ!?」
見ると、トラップの左頬に薄く血がにじんでいる。トラップが後ろにいなかったら、今頃私が怪我をしていただろう。
「大丈夫だから前向いとけっ!ボケッとすんな!!」
ほっ。取り合えずは大丈夫そう。
「う、うん!」
後でちゃんと手当てしてあげるからね!
そう心の中で叫びながら再び、正面を向いた私を横目で確認したトラップは、
「ったく。頼むぜ?パステル、俺の背中おめぇに預けるからな!」
と言って、彼も目の前の敵を睨み付けた。
「うん!任せといて!!」
勢いよく言った私の言葉に、背中ごしでトラップが笑っているのがわかった。
おしまい。
戻る
倒しても倒しても、どこからか溢れ出てくる目の前の敵に集中してる時だった。
「パステル!後ろっ!!」
後ろからの叫び声に振り向きかけたその瞬間、ビシッとパチンコが命中した音が聞こえたかと思うと、
「ギュウウウウゥン!」
私の耳元で、黒トカゲ戦士の悲鳴が響く。
びっくりして振り向くと、私に恐ろしい牙を向けて、倒れこんでくるところだった。
「きゃああああー!!」
潰されるっ。
ダメだと解っていたのに、思わず目を瞑ってしまった。
その瞬間、
「ばかっ!しっかりっ目ぇ開けてろ!!」
ぐいっと腕を引かれて、倒れ掛かってくる黒トカゲ戦士から助け出してくれたのは、さっきから何度も私を叱責してくれているトラップだった。
「あ、ありがとうトラップ。」
お礼を言う私に容赦ない言葉が飛ぶ。
「お前さっきから見てりゃ、背中が隙だらけなんだよ!」
そう言いながらも、次々と襲ってくるモンスターにパチンコを打ち込んでいく。
すごいっ!!
・・・なんて、のんびり眺めてる場合じゃ無かった!私も目の前の敵、スネークフライに集中する。
トラップと背中合わせになりながら敵を倒していく。
すると突然、背中から
「つっ・・・!!」
トラップのうめき声が聞こえて慌てて振り返る。
「トラップ!?」
見ると、トラップの左頬に薄く血がにじんでいる。トラップが後ろにいなかったら、今頃私が怪我をしていただろう。
「大丈夫だから前向いとけっ!ボケッとすんな!!」
ほっ。取り合えずは大丈夫そう。
「う、うん!」
後でちゃんと手当てしてあげるからね!
そう心の中で叫びながら再び、正面を向いた私を横目で確認したトラップは、
「ったく。頼むぜ?パステル、俺の背中おめぇに預けるからな!」
と言って、彼も目の前の敵を睨み付けた。
「うん!任せといて!!」
勢いよく言った私の言葉に、背中ごしでトラップが笑っているのがわかった。
おしまい。
戻る
《おちょこみょーり》
パステルの食事も終わって俺達は、男同士で固まっていろんな話をしていたところだった。
女同士の輪から一人こっちに向かって来たやつがいた。
ルーミィだ。
「ねぇ、とりゃーに聞きたいことがあるんら。」
「俺に聞きたい事?」
改まってどうしたんだ、こいつ。
そう思いながらもルーミィに目線を合わせる。
「とりゃー!『おちょこみょーり』ってなんらぁ?」
「はあぁぁ!?おちょこぉー???」
チビすけの訳のわからん質問に、思わず眉をしかめる。
「ちーあーうー!お、ちょ、こ!」
・・・だから何なんだよ、おちょこって。
俺がさっぱり理解して無いのが解ったんだろう。
ルーミィは腰に手を当ててキッと俺を睨んでる。
・・・・・・こいつ、将来すっげぇ気の強い女になりそうだな・・・。俺の勘はきっと当たるはずだ。
「とりゃーはぜんぜん、わかってないんら!ぱぁーるぅとるーみぃはおんにゃのこで、とりゃーはおちょこのこでしょ!?」
パステルとこいつがおんにゃのこ・・・?あぁっ!女の子か!?ってことはおちょこじゃなくて男、だな。
怒って膨れたほっぺを、むにぃーと引っ張りながら
「ばーか。おちょこじゃねぇよ。お、と、こ、だろ!?」
ルーミィの舌ったらずな言い方に振り回されるのは毎度の事だ。
言ってる事は一人前でも、やっぱりまだまだ子供なんだ。かわいいもんじゃねーか。
「ふんっだ。るーみぃバカじゃないもん!わかんないとりゃーがバカなんだもんね。」
・・・・さっき思った事は撤回してやる。やっぱ、かわいくねぇー!
「うっせーっの!ガキのくせして、どこでそんな言葉覚えてくんだよ。ったく。」
けっ。近頃のガキは口の利き方がなってねぇ。
ここは保護者として、ガツンと言ってやらねーとな。
なんて俺が考えていると、
「とりゃーがぱーるぅに、ゆってたんらおう!」
ビシッ!と、小さな手で指されてしまった。
こ、こいつ、よく見てんなぁ。恐るべしチビすけ。
「んで、おちょこ・・・じゃねぇ。男冥利がどーしたんだよ?って言うかまた、しょーもない言葉覚えやがって。一体、誰が教えたんだよ。」
男冥利なんて言葉、それこそ、こんなガキが言うことじゃねぇーつーの!
するとまた、驚きの答えが返ってきた。
「さっきね。ぱーるぅとピアスとキムがお話してたんだおう!」
ふむふむ。それは俺も知ってる。パステル曰く、ガールズトークってやつだろう。
「んで?」
「んでね。とりゃーは、おちょこみょーりにつきうってピアスがいってたんら。でもるーみぃ、おちょこみょーりって何かわかんなかったから、とりゃーに聞きに来たんら。」
「・・・・・・・・。」
はぁ!?その3人の会話から俺が男冥利に尽きる、っつう結論に至った過程がさっぱりわからねぇ。
なぜなら、俺には一切自覚がない!
「・・・・なあ、ルーミィ。男冥利に尽きるって言う前は、3人で何の話をしてたんだ?」
話の内容が気になる。俄然、気になる。
「えーっとね。キムがとりゃーみたいなゆーしゅーなシーフが一緒で、ぱーるぅにいいねって言ったんら。」
ほっほう。さすがキム、わかってんじゃねぇか。
「しょしたら、ぱーるぅがとりゃーはとりゃぶるメーカーで、口はわるいし、ぎゃんぶる好きだし、ねおきも悪いって言った。」
・・・あいつ。俺の悪口ばっかじゃねーか!くそっー!!
「んで、ちゅぎにキムがぱーるぅに、とりゃーのいいとこぜんぜんわかってないって怒ったんらけど、それを聞いたぱーるぅも、キムにおこっちゃったんだおう。」
んんん???それって・・・・
「そしたらピアスが、とりゃーはおちょこみょーりにつきうってわらったんら。」
もはや、今の俺にルーミィの言葉は、あまり聞こえてなかった。
多分、キムは諸手をあげて俺を褒めたんだろう。
確かにキムが俺のことを気に入ってくれてるのは、俺も感じている。
そしてパステルもそれを知ってるはずだ。
パステルの事だ、俺を褒めるキムに思わず、反論してしまったんだろう。(と思いたい・・・。)
その結果、キムからは「トラップの良い所がまったく解ってない。」発言をされてカチン!ときた。
これがクレイの事ならきっと、パステルも突っかかったりせず一緒になって褒めてたに違いない。
と、言う事は、パステルは俺の事だから、むきになったと考えるのが正しい気がする。
・・・つまり、パステルが俺の事を特別に思ってる・・・と考えるのは都合良すぎるだろうか?
思わずにやけてくる口元を左手で隠す。
「とりゃー?おかおあかいけど、どーしたんかぁ?良いことあったんかぁ?」
隠しきれてねーし。・・・顔まで赤いのかよ、俺は。
ちらっと、パステルを見る。
「・・・・ルーミィ。他にパステルは何か言ってなかったか?」
何を期待してるんだ俺。
うーん。と考えてたルーミィは
「なんにもゆってなかったおう!」
と、俺に現実を突きつけてくれた。
ま、そんなもんだろう。
しゃーねぇよな。軽くため息をついてると
「で、とりゃーはクシャミ、でたんかぁ?」
・・・ルーミィの思考回路が俺にはまったく理解できねぇ。
けど、こいつの行動は褒めてやらねぇとな。よしっ。
「なーにーをー言ってるんだあぁ??」
俺が思いっきり、ルーミィのお腹をこしょばしてやると、きゃーきゃーと喜んで笑い転げるルーミィがいた。
おしまい。
戻る
パステルの食事も終わって俺達は、男同士で固まっていろんな話をしていたところだった。
女同士の輪から一人こっちに向かって来たやつがいた。
ルーミィだ。
「ねぇ、とりゃーに聞きたいことがあるんら。」
「俺に聞きたい事?」
改まってどうしたんだ、こいつ。
そう思いながらもルーミィに目線を合わせる。
「とりゃー!『おちょこみょーり』ってなんらぁ?」
「はあぁぁ!?おちょこぉー???」
チビすけの訳のわからん質問に、思わず眉をしかめる。
「ちーあーうー!お、ちょ、こ!」
・・・だから何なんだよ、おちょこって。
俺がさっぱり理解して無いのが解ったんだろう。
ルーミィは腰に手を当ててキッと俺を睨んでる。
・・・・・・こいつ、将来すっげぇ気の強い女になりそうだな・・・。俺の勘はきっと当たるはずだ。
「とりゃーはぜんぜん、わかってないんら!ぱぁーるぅとるーみぃはおんにゃのこで、とりゃーはおちょこのこでしょ!?」
パステルとこいつがおんにゃのこ・・・?あぁっ!女の子か!?ってことはおちょこじゃなくて男、だな。
怒って膨れたほっぺを、むにぃーと引っ張りながら
「ばーか。おちょこじゃねぇよ。お、と、こ、だろ!?」
ルーミィの舌ったらずな言い方に振り回されるのは毎度の事だ。
言ってる事は一人前でも、やっぱりまだまだ子供なんだ。かわいいもんじゃねーか。
「ふんっだ。るーみぃバカじゃないもん!わかんないとりゃーがバカなんだもんね。」
・・・・さっき思った事は撤回してやる。やっぱ、かわいくねぇー!
「うっせーっの!ガキのくせして、どこでそんな言葉覚えてくんだよ。ったく。」
けっ。近頃のガキは口の利き方がなってねぇ。
ここは保護者として、ガツンと言ってやらねーとな。
なんて俺が考えていると、
「とりゃーがぱーるぅに、ゆってたんらおう!」
ビシッ!と、小さな手で指されてしまった。
こ、こいつ、よく見てんなぁ。恐るべしチビすけ。
「んで、おちょこ・・・じゃねぇ。男冥利がどーしたんだよ?って言うかまた、しょーもない言葉覚えやがって。一体、誰が教えたんだよ。」
男冥利なんて言葉、それこそ、こんなガキが言うことじゃねぇーつーの!
するとまた、驚きの答えが返ってきた。
「さっきね。ぱーるぅとピアスとキムがお話してたんだおう!」
ふむふむ。それは俺も知ってる。パステル曰く、ガールズトークってやつだろう。
「んで?」
「んでね。とりゃーは、おちょこみょーりにつきうってピアスがいってたんら。でもるーみぃ、おちょこみょーりって何かわかんなかったから、とりゃーに聞きに来たんら。」
「・・・・・・・・。」
はぁ!?その3人の会話から俺が男冥利に尽きる、っつう結論に至った過程がさっぱりわからねぇ。
なぜなら、俺には一切自覚がない!
「・・・・なあ、ルーミィ。男冥利に尽きるって言う前は、3人で何の話をしてたんだ?」
話の内容が気になる。俄然、気になる。
「えーっとね。キムがとりゃーみたいなゆーしゅーなシーフが一緒で、ぱーるぅにいいねって言ったんら。」
ほっほう。さすがキム、わかってんじゃねぇか。
「しょしたら、ぱーるぅがとりゃーはとりゃぶるメーカーで、口はわるいし、ぎゃんぶる好きだし、ねおきも悪いって言った。」
・・・あいつ。俺の悪口ばっかじゃねーか!くそっー!!
「んで、ちゅぎにキムがぱーるぅに、とりゃーのいいとこぜんぜんわかってないって怒ったんらけど、それを聞いたぱーるぅも、キムにおこっちゃったんだおう。」
んんん???それって・・・・
「そしたらピアスが、とりゃーはおちょこみょーりにつきうってわらったんら。」
もはや、今の俺にルーミィの言葉は、あまり聞こえてなかった。
多分、キムは諸手をあげて俺を褒めたんだろう。
確かにキムが俺のことを気に入ってくれてるのは、俺も感じている。
そしてパステルもそれを知ってるはずだ。
パステルの事だ、俺を褒めるキムに思わず、反論してしまったんだろう。(と思いたい・・・。)
その結果、キムからは「トラップの良い所がまったく解ってない。」発言をされてカチン!ときた。
これがクレイの事ならきっと、パステルも突っかかったりせず一緒になって褒めてたに違いない。
と、言う事は、パステルは俺の事だから、むきになったと考えるのが正しい気がする。
・・・つまり、パステルが俺の事を特別に思ってる・・・と考えるのは都合良すぎるだろうか?
思わずにやけてくる口元を左手で隠す。
「とりゃー?おかおあかいけど、どーしたんかぁ?良いことあったんかぁ?」
隠しきれてねーし。・・・顔まで赤いのかよ、俺は。
ちらっと、パステルを見る。
「・・・・ルーミィ。他にパステルは何か言ってなかったか?」
何を期待してるんだ俺。
うーん。と考えてたルーミィは
「なんにもゆってなかったおう!」
と、俺に現実を突きつけてくれた。
ま、そんなもんだろう。
しゃーねぇよな。軽くため息をついてると
「で、とりゃーはクシャミ、でたんかぁ?」
・・・ルーミィの思考回路が俺にはまったく理解できねぇ。
けど、こいつの行動は褒めてやらねぇとな。よしっ。
「なーにーをー言ってるんだあぁ??」
俺が思いっきり、ルーミィのお腹をこしょばしてやると、きゃーきゃーと喜んで笑い転げるルーミィがいた。
おしまい。
戻る
《最後に想う人》
シロからやっとの思いで降りた俺は、不安定な地面を慎重に踏みしめながら、取り合えず視界に映った木陰に体を預けた。
が、この休憩が終わっても立ち上がれる自信は一切無い。
この体の異変はなんなんだ・・・?
昨日まではなんとも無かったのに、今日パステルに起された時にはすでに体が思う様に動かなくなっていた。
最初は疲れのせいかとも思ったが、明らかにそれと違うと自覚するのにそう時間はかからなかった。
体と頭が重たい。呼吸が荒く息苦しい。食欲が無い。足元もふらつく。
そんな体を引きずって無理やりパステルたちの食事に混ざったが案の定、腹は空いているはずなのに何も食べたくなかった。
言葉少なな俺の様子にクレイは気づいたのだろう。
目で「大丈夫か?」と聞いてきたクレイに一刻を争う今、うなずき返すのが精一杯だった。
みんなに迷惑だけはかけねぇようにしよう。と心に決めて。
でも・・・
・・・やっぱあの時、素直に体の不調を訴えておけば良かったんだ。
馬鹿か俺はっ!
だけど・・・もう・・・。
後悔した時には手遅れだった。
声は無音の空気になって俺の口を通り過ぎていく。
誰かに助けを呼ぶ力は残っていない。
あいつの名前を呼ぶ力すら・・・・・・。
視界がどんどん不透明になり、喉の奥からはヒューヒューと、か細い息を吐く。
背中からは未だかつて体験した事の無い、[『死』と言う名の闇が迫って来ているのが解る。
まずい!すっげぇーまずい!
キットン!ノル!クレイ!シロ!ルーミィ!パステル!!
頼む!助けてくれっ!!
聞こえるわけのねぇ俺の叫び。
いつの間にか闇は気配だけじゃなく、実体をもって俺を飲み込み始めていた。
よく回ってねぇ頭でも根っからの現実主義は、この事実からは逃げられない事を冷静に理解している。
・・・・嫌な性格してんな俺。
じり。
にじり。
一方的に支配していく闇にただ、ただ、絶望だけを感じて。
肩、背中、足・・・
いやだ!
こんなところで死んだらあいつがどんな顔をするか、解りきってるじゃねーか!
そんな顔させたくて、ずっと一緒に居たんじゃねぇだろっ!!??
膝、腹、腕・・・
くっ・・!!
くそっ!こんな闇に飲まれてんじゃねぇよ!
なさけねぇぞ、トラップ!
かすむ視界の向こうでパステルの笑顔をかろうじて捉える。
クレイと話しているパステルの嬉しそうなまぶしい笑顔に、苦しい呼吸が幾分楽になった気がする。
・・はっはは。すっげぇーな、あいつの笑顔は。それだけで俺をこんなにも勇気付けてくれる。
胸、首・・・顎・・・
・・・でも・・・
・・・・・・・・・・わりぃ
俺・・・・ダメかもしんねぇ・・・
ははっ
・・・・っ!笑えねぇ・・・
・・・・パステ・・・ル・・・・
・・・・・・パ・・・・ス・・・・テ・・・・。
嬉しそうな笑顔のまま、こっちに歩いてくるパステルの姿を見たのが最後。
俺の頭は一気に闇へ引きずり込まれていった・・・・。
暗闇の中、ただひたすら呼び続ける名は、ひとつ。
声の無いまま、叫び続ける想いもだた、ひとつ。
もう進まぬ足で逢いに行きたい人。
指先すら上がらない腕に抱きしめたい身体。
その全てに当てはまる人物なんか、この地球上探してもひとりしかいない。
・・・なあ・・・?
パステル。
願わくは・・・・・
お願いだから・・・・
俺の願いを叶えさせてくれないか?
おしまい。
戻る
シロからやっとの思いで降りた俺は、不安定な地面を慎重に踏みしめながら、取り合えず視界に映った木陰に体を預けた。
が、この休憩が終わっても立ち上がれる自信は一切無い。
この体の異変はなんなんだ・・・?
昨日まではなんとも無かったのに、今日パステルに起された時にはすでに体が思う様に動かなくなっていた。
最初は疲れのせいかとも思ったが、明らかにそれと違うと自覚するのにそう時間はかからなかった。
体と頭が重たい。呼吸が荒く息苦しい。食欲が無い。足元もふらつく。
そんな体を引きずって無理やりパステルたちの食事に混ざったが案の定、腹は空いているはずなのに何も食べたくなかった。
言葉少なな俺の様子にクレイは気づいたのだろう。
目で「大丈夫か?」と聞いてきたクレイに一刻を争う今、うなずき返すのが精一杯だった。
みんなに迷惑だけはかけねぇようにしよう。と心に決めて。
でも・・・
・・・やっぱあの時、素直に体の不調を訴えておけば良かったんだ。
馬鹿か俺はっ!
だけど・・・もう・・・。
後悔した時には手遅れだった。
声は無音の空気になって俺の口を通り過ぎていく。
誰かに助けを呼ぶ力は残っていない。
あいつの名前を呼ぶ力すら・・・・・・。
視界がどんどん不透明になり、喉の奥からはヒューヒューと、か細い息を吐く。
背中からは未だかつて体験した事の無い、[『死』と言う名の闇が迫って来ているのが解る。
まずい!すっげぇーまずい!
キットン!ノル!クレイ!シロ!ルーミィ!パステル!!
頼む!助けてくれっ!!
聞こえるわけのねぇ俺の叫び。
いつの間にか闇は気配だけじゃなく、実体をもって俺を飲み込み始めていた。
よく回ってねぇ頭でも根っからの現実主義は、この事実からは逃げられない事を冷静に理解している。
・・・・嫌な性格してんな俺。
じり。
にじり。
一方的に支配していく闇にただ、ただ、絶望だけを感じて。
肩、背中、足・・・
いやだ!
こんなところで死んだらあいつがどんな顔をするか、解りきってるじゃねーか!
そんな顔させたくて、ずっと一緒に居たんじゃねぇだろっ!!??
膝、腹、腕・・・
くっ・・!!
くそっ!こんな闇に飲まれてんじゃねぇよ!
なさけねぇぞ、トラップ!
かすむ視界の向こうでパステルの笑顔をかろうじて捉える。
クレイと話しているパステルの嬉しそうなまぶしい笑顔に、苦しい呼吸が幾分楽になった気がする。
・・はっはは。すっげぇーな、あいつの笑顔は。それだけで俺をこんなにも勇気付けてくれる。
胸、首・・・顎・・・
・・・でも・・・
・・・・・・・・・・わりぃ
俺・・・・ダメかもしんねぇ・・・
ははっ
・・・・っ!笑えねぇ・・・
・・・・パステ・・・ル・・・・
・・・・・・パ・・・・ス・・・・テ・・・・。
嬉しそうな笑顔のまま、こっちに歩いてくるパステルの姿を見たのが最後。
俺の頭は一気に闇へ引きずり込まれていった・・・・。
暗闇の中、ただひたすら呼び続ける名は、ひとつ。
声の無いまま、叫び続ける想いもだた、ひとつ。
もう進まぬ足で逢いに行きたい人。
指先すら上がらない腕に抱きしめたい身体。
その全てに当てはまる人物なんか、この地球上探してもひとりしかいない。
・・・なあ・・・?
パステル。
願わくは・・・・・
お願いだから・・・・
俺の願いを叶えさせてくれないか?
おしまい。
戻る
《仮面舞踏会》
今、私達パーティはなんとキスキン国に来ている。
ついにミモザ女王とナレオが結婚する事になったお祝いの式典が開かれる事になり、「パステル達にも是非、立ち会って欲しい。」と、ミモザ姫直々にご招待を受けた私達!
もちろん旅費は向こう負担だし、美味しい料理もお腹いっぱい食べれるはず。
・・・なにより、ミモザ姫の晴れの大舞台に立ち会えることが何より嬉しい。
と言う訳で、はるばる海を越えてキスキン国まで来た私たちなんだけど。
今、想像以上のもてなしに自分達の身分をすっかり忘れてしまいそうになっている6人と1匹・・・。
おほほほほ。なーんちゃって。
でもねー、仕方ないと思うんだ。
私とルーミィは毎日どこのお嬢様!?な服を着せてもらい、男性陣もどこの国の王子様?なんて格好をさせられた挙句、呼べばすぐに飛んでくるメイドさん達。あまーいお菓子に上品な紅茶、口に入れるだけでとろけるお肉なんかを毎食食べてるんだよ!?
きっと一生分の贅沢をしてると言っても、決して言いすぎじゃないと思う。
いつものジリ貧生活を忘れて、みんな夢のような生活を送っていた。
あ。もちろん、式典の方にもきちんと参列したよ!?
すっごくロイヤルな世界に気後れしながらも、ね。
そんなお城では日替わりでさまざまなイベントが行われていて、今日はなんと仮面舞踏会が行われるらしい。
みんなの衣装は内緒なんだって!!だからルーミィの衣装も教えてもらってない。
舞踏会会場でのお楽しみってことらしい。
仮面舞踏会だもんね。相手が誰か解らないって言うのが醍醐味なんだろう。
うわぁー!すっごく楽しみ!!
ちなみに私はパステル用に、と用意された衣装を見て口をあんぐり開けてしまった・・・。
全体を占める色は光沢を帯びた黒。
その黒に良いアクセントとなっているのが、豪華な純白のレース。
ハイネックやスカート、袖などの部分にすっごくセンスよくあしらわれていて、なんて言うかシンプルなデザインなのにゴージャス!!
しかも、な、なんと!
バックは腰くらいまで大きく開いていて、前はハイネックから胸の谷間が見えそうなくらいの穴が菱形に空いていた・・・。
無理!無理!無理!ぜーったいに無理!!
こんなの着てトラップに見つかったら、爆笑されるに決まってるじゃん!!
こんなセクシーなドレス絶対着れないよぉ!!マリーナならバッチリ似合うと思うけどさー!!
持って来てくれたメイドさんに
「・・・すみません。せっかく用意していただいて、こんな事言うのは大変失礼なんですが、なにか違う衣装はありませんか?」
と、心から申し訳ないなと思いながら断っている時だった。
トントン。
ノックして入ってきたのはミモザ姫・・・いやミモザ女王だった。
「どうだ?パステル。わたしが用意した衣装は気に入ってもらえたか?」
ううう・・・。本人に言うのはすっごく心苦しかったけど、私は正直に言う事にした。
「せっかく用意してくださったのに、大変心苦しいのですが、あのー。私には少し大胆すぎる気がして・・・」
私の申し出を聞いてミモザ女王は怒ったりせず、にっこりと微笑んで
「ふふ。だから私が直に見立てたのだ。せっかくの仮面舞踏会、楽しんでもらいたいからな。」
大丈夫だ。パステルなら絶対に似合うぞ。と言って強引にメイド達に着替えの指示をしていくミモザ女王・・・。
あれよあれよと言う間に着飾られていった私はすでに、私じゃない気がした。
お化粧もしてもらって仕上がった私を見て、ミモザ女王はとっても満足げにうなずいた。
「うむ。やっぱり私が思っていた通りだな。よく似合っている。」
そう言うと私に仮面を手渡した。
もーこうなりゃ、ヤケクソだ。トラップにだけは絶対にバレる訳にはいかない!!!
そう心に決めて私はミモザ女王と仮面を付けて、いよいよ会場へと向かった。
豪華なシャンデリアでキラキラと輝く会場は沢山の人で埋め尽くされていて、中央ではダンスが繰り広げられていた。
ふわあぁああ!すごーい!
入り口で感動していると
「パステル・・・、口は閉じておいた方がいいと思うぞ。」
ミモザ女王に注意されて、慌てて閉じる。
おっと、あぶない、あぶない。
「じゃあパステル、仮面舞踏会楽しんでくれ。」
そう言って手を振りながらミモザ女王は、人ごみの中へと消えていった。
・・・・え。1人でどうしたらいいの???
ダンスは基本的に男性から誘うものだし・・・・。
つまり誘われなかったら、ずーっと踊れ無いわけで。
と、とりあえずパーティのみんなを探そうかな?・・・トラップ以外を。
そう思ってあたりを見回してみるけど、とてもじゃないけど、すぐには見つかりそうに無かった。
だって・・・・・みんな仮面をつけてるんだもーん!!
まったくもって誰が誰だか一切、解らない。
なんだか、迷子になった時の気持ちにすっごく似てる気がする。くすん。
浮かれた気分が少ししぼんで、端の方に行きかけたときだった。
「私と1曲、踊ってくださいませんか?」
すらりと背の高い男性が恭しく、私に手を差し伸べていた。
「わ、私ですか!?」
予想だにしていなかった突然のお誘いに、間抜けな返事をしてしまった。
ひゃー!かっこ悪るすぎるよ・・・私。
私の返事に驚いたのだろう、目をぱちくりさせて男性は
「・・・え?えっと、すみません。失礼しました。」
そう言って、そそくさとどこかに去ってしまった・・・。がーん。
自己嫌悪。すっごく落ち込む・・・。
あーあ。せっかく男性から誘われたのに、私ってなんて馬鹿なんだろう。
きっとマリーナならこんな時、にっこり微笑んで「よろこんで。」とか難なくこなしてしまうんだろうなぁ。
・・・・!!!
そうだ!これだ!
次誘われたら、にっこり笑って「よろこんで。」って言ってみよう!
そんな事を考えていたら、再び声をかけられた。
「是非、僕と踊っていただけませんか?」
仮面の向こうは優しそうな声だった。
・・・よし!上手く返事をするのよ、パステル。
意気込んで返事をしようと顔を上げると
「私とも是非!」
・・・・・え???
「次は僕と踊ってください!!」
「いや!私と踊りましょう!」
「貴女と是非、一緒に躍らせてください。」
「抜け駆けするな!」
「俺が先に目を付けてたんだぞ!」
「声をかけたのは僕が先だ!」
数名の男性が言い争っていた。
何?この状況はなんなの!?
さっきの意気込みはどこかに飛んでいってしまった。
目の前の状況に困ってしまった私にある男性から、ひとつの提案が出された。
それは私に踊る相手を選んでもらおう。と言うものだった。
私が踊りたいと思う相手の手を取る。
単純で解りやすい解決方法に全員が納得したみたいだけど、選ぶ私は大変だ。
ど、どーしよう・・・。
一体誰を選べばいいのだろう。
目の間にずらりと並べられた、私よりも大きくがっしりとした男性の手。
顔を見てもみんな仮面を付けているからみんな同じに見えるし・・・。
き、決められないよー!
いっその事全員に「ごめんなさい。」と断ろうか?それなら公平な気もするけど・・・返事としてあまりにも失礼な気もする。
う ん。
並んだ手を見て必死に悩んでいた私の目に、一つ気になる手があった。
よしっ!
「この方と踊ります。」
自分の勘を信じてその手握って選ぶと、周りからは残念そうなため息が漏れた。
ごめんなさーい!!
心の中で必死に謝る。
でも、みんな育ちがいい人ばかりなんだろう。っていうか紳士だ。
私が選んだ答えに文句を言う人は、ひとりも無かった。
私に選ばれた金髪の男性は少し驚いていたけど、次の瞬間にはにっこりと笑って、
「・・・では、あちらへ参りましょうか。」
と私の手を握ってダンスの輪へと、優しくエスコートしてくれた。
踊っている人たちの邪魔にならない場所に、私の選んだ金髪の男性と向かい合って立つ。
すると、丁寧に腰を折り、
「私をお選びくださり、ありがとうございます。では改めて、私と踊って頂けますか?」
ときれいな手を差し伸べてくれた。
私はその手を取り、にっこりと微笑んで
「もちろんよろこんで。トラップ。」
と返事を返した。
「えっ・・・・!?」
私の返事に仮面の下で、大いに驚いてくれた金髪の男性。
しばらく沈黙の後、観念したのか仮面を取って被っていたカツラを脱いだ。
「・・・なんで解ったんだよ?」
「んー。へへっ・・・内緒!」
せっかくヅラまで被ったのにっ!とか何とか言って悔しがっているトラップ。
ふふふ。実は、沢山の男性の中から選ぶ時は私も気づいてなかったんだよね。
なんとなく、目に付いた手を選んだもん。
でもね、手を握ったら解ってしまった。
あ、トラップだ。って!
トラップは脱いだカツラを、近くにいたメイドさんに預けると戻ってきた。
「メイドさん、あんなもの渡されて驚いてるよ?」
「いーんだよ。あんなかゆいもん、被ってられねー!」
・・・今まで被ってたのに。なに言ってんだか。
でも、カツラを脱いでいつもの赤毛に戻ったトラップを見て改めて思う。
トラップて、どんな服でも簡単に着こなしちゃうんだよね。
今着ているのは黒いスーツっていても、中にきちんとベストも着てすごく立派なスーツだ。
肩には黒いマントが金の止め具で止まっている。
すごくかっこいい!
ニコニコしながらトラップを見ていると
「なんだよ!?じろじろ見んじゃねーよ!」
と叱られた。っていうよりも照れてるのかな?
「衣装よく似合ってるよ。トラップが選んだの?」
「いや、ミモザ女王の目立てだって着せられた。」
「トラップも!?」
あら?もしかしてミモザ女王、私達全員の分を選んでくれたのかなぁ?
そんな事考えていると、トラップは仮面を付けながらニヤッと笑って。
「おめぇも、意外と似合ってるぜ?」
「!!!意外とってなによぉー!」
くそー!やっぱり笑われた!!
「おらおら、せっかくそんな格好してんのに、んな顔すんじゃねーよ。」
そう言うと私の手を取って、
「んじゃ、踊りますか!」
「うんっ!!」
私とトラップはダンスの輪の中へと入っていった。
******
踊り終わった後で、パーティのみんなと無事合流した私達。
・・・なんだけど、みんなボケーっと口をあけて私とトラップを見ている。
「???どーしたの?みんな。」
私達の衣装が変なのかな?
そんな心配をしているとクレイが説明してくれた。
「なんて言うか・・・、トラップとパステルはお互いパートナーですっ!て感じ・・・」
「はあぁあ?」
クレイが何を言いたいのかさっぱり解んない。
「お互いその衣装を選んだのは偶然ですか?」
キットンが聞いてくる。
「衣装?私とトラップの衣装はミモザ女王が見立ててくれて・・・ってみんなもそうじゃないの?」
みんな一斉に違う。と首を振る。
あれぇ?私とトラップの分だけってこと??
なんでだろう。
「鏡、見たら解ると思う。」
ノルが会場の壁に掛かった鏡を指差しながら言う。
恐る恐る、トラップを連れて鏡の前に二人で立ってみると。
ひゃー!!!なんだか二人並ぶと凄い迫力があった。
そう言えば、黒いドレスを着てる人って居なかった。黒いスーツの人は何人かいたと思うけどね。
みんな仮面舞踏会だからか、一段と華やかな色のドレスを着ている人が多い。
他のパーティメンバーも同じ。
つまり、私とトラップはミモザ女王に、対になっているドレスとスーツを着せられていたわけで・・・。
「やられた・・・・。」
トラップが隣で手を顔に当て呟く。
私はやられたっていうよりも、なんで私達にだけ?って感じなんだけど。
そんな二人を、生暖かい目で遠巻きに見てる他のメンバー。
「ま、あの二人で並んで立っていたら、邪魔者は絶対寄ってきませんね。」
とキットンが笑っていた。
おしまい。
戻る
今、私達パーティはなんとキスキン国に来ている。
ついにミモザ女王とナレオが結婚する事になったお祝いの式典が開かれる事になり、「パステル達にも是非、立ち会って欲しい。」と、ミモザ姫直々にご招待を受けた私達!
もちろん旅費は向こう負担だし、美味しい料理もお腹いっぱい食べれるはず。
・・・なにより、ミモザ姫の晴れの大舞台に立ち会えることが何より嬉しい。
と言う訳で、はるばる海を越えてキスキン国まで来た私たちなんだけど。
今、想像以上のもてなしに自分達の身分をすっかり忘れてしまいそうになっている6人と1匹・・・。
おほほほほ。なーんちゃって。
でもねー、仕方ないと思うんだ。
私とルーミィは毎日どこのお嬢様!?な服を着せてもらい、男性陣もどこの国の王子様?なんて格好をさせられた挙句、呼べばすぐに飛んでくるメイドさん達。あまーいお菓子に上品な紅茶、口に入れるだけでとろけるお肉なんかを毎食食べてるんだよ!?
きっと一生分の贅沢をしてると言っても、決して言いすぎじゃないと思う。
いつものジリ貧生活を忘れて、みんな夢のような生活を送っていた。
あ。もちろん、式典の方にもきちんと参列したよ!?
すっごくロイヤルな世界に気後れしながらも、ね。
そんなお城では日替わりでさまざまなイベントが行われていて、今日はなんと仮面舞踏会が行われるらしい。
みんなの衣装は内緒なんだって!!だからルーミィの衣装も教えてもらってない。
舞踏会会場でのお楽しみってことらしい。
仮面舞踏会だもんね。相手が誰か解らないって言うのが醍醐味なんだろう。
うわぁー!すっごく楽しみ!!
ちなみに私はパステル用に、と用意された衣装を見て口をあんぐり開けてしまった・・・。
全体を占める色は光沢を帯びた黒。
その黒に良いアクセントとなっているのが、豪華な純白のレース。
ハイネックやスカート、袖などの部分にすっごくセンスよくあしらわれていて、なんて言うかシンプルなデザインなのにゴージャス!!
しかも、な、なんと!
バックは腰くらいまで大きく開いていて、前はハイネックから胸の谷間が見えそうなくらいの穴が菱形に空いていた・・・。
無理!無理!無理!ぜーったいに無理!!
こんなの着てトラップに見つかったら、爆笑されるに決まってるじゃん!!
こんなセクシーなドレス絶対着れないよぉ!!マリーナならバッチリ似合うと思うけどさー!!
持って来てくれたメイドさんに
「・・・すみません。せっかく用意していただいて、こんな事言うのは大変失礼なんですが、なにか違う衣装はありませんか?」
と、心から申し訳ないなと思いながら断っている時だった。
トントン。
ノックして入ってきたのはミモザ姫・・・いやミモザ女王だった。
「どうだ?パステル。わたしが用意した衣装は気に入ってもらえたか?」
ううう・・・。本人に言うのはすっごく心苦しかったけど、私は正直に言う事にした。
「せっかく用意してくださったのに、大変心苦しいのですが、あのー。私には少し大胆すぎる気がして・・・」
私の申し出を聞いてミモザ女王は怒ったりせず、にっこりと微笑んで
「ふふ。だから私が直に見立てたのだ。せっかくの仮面舞踏会、楽しんでもらいたいからな。」
大丈夫だ。パステルなら絶対に似合うぞ。と言って強引にメイド達に着替えの指示をしていくミモザ女王・・・。
あれよあれよと言う間に着飾られていった私はすでに、私じゃない気がした。
お化粧もしてもらって仕上がった私を見て、ミモザ女王はとっても満足げにうなずいた。
「うむ。やっぱり私が思っていた通りだな。よく似合っている。」
そう言うと私に仮面を手渡した。
もーこうなりゃ、ヤケクソだ。トラップにだけは絶対にバレる訳にはいかない!!!
そう心に決めて私はミモザ女王と仮面を付けて、いよいよ会場へと向かった。
豪華なシャンデリアでキラキラと輝く会場は沢山の人で埋め尽くされていて、中央ではダンスが繰り広げられていた。
ふわあぁああ!すごーい!
入り口で感動していると
「パステル・・・、口は閉じておいた方がいいと思うぞ。」
ミモザ女王に注意されて、慌てて閉じる。
おっと、あぶない、あぶない。
「じゃあパステル、仮面舞踏会楽しんでくれ。」
そう言って手を振りながらミモザ女王は、人ごみの中へと消えていった。
・・・・え。1人でどうしたらいいの???
ダンスは基本的に男性から誘うものだし・・・・。
つまり誘われなかったら、ずーっと踊れ無いわけで。
と、とりあえずパーティのみんなを探そうかな?・・・トラップ以外を。
そう思ってあたりを見回してみるけど、とてもじゃないけど、すぐには見つかりそうに無かった。
だって・・・・・みんな仮面をつけてるんだもーん!!
まったくもって誰が誰だか一切、解らない。
なんだか、迷子になった時の気持ちにすっごく似てる気がする。くすん。
浮かれた気分が少ししぼんで、端の方に行きかけたときだった。
「私と1曲、踊ってくださいませんか?」
すらりと背の高い男性が恭しく、私に手を差し伸べていた。
「わ、私ですか!?」
予想だにしていなかった突然のお誘いに、間抜けな返事をしてしまった。
ひゃー!かっこ悪るすぎるよ・・・私。
私の返事に驚いたのだろう、目をぱちくりさせて男性は
「・・・え?えっと、すみません。失礼しました。」
そう言って、そそくさとどこかに去ってしまった・・・。がーん。
自己嫌悪。すっごく落ち込む・・・。
あーあ。せっかく男性から誘われたのに、私ってなんて馬鹿なんだろう。
きっとマリーナならこんな時、にっこり微笑んで「よろこんで。」とか難なくこなしてしまうんだろうなぁ。
・・・・!!!
そうだ!これだ!
次誘われたら、にっこり笑って「よろこんで。」って言ってみよう!
そんな事を考えていたら、再び声をかけられた。
「是非、僕と踊っていただけませんか?」
仮面の向こうは優しそうな声だった。
・・・よし!上手く返事をするのよ、パステル。
意気込んで返事をしようと顔を上げると
「私とも是非!」
・・・・・え???
「次は僕と踊ってください!!」
「いや!私と踊りましょう!」
「貴女と是非、一緒に躍らせてください。」
「抜け駆けするな!」
「俺が先に目を付けてたんだぞ!」
「声をかけたのは僕が先だ!」
数名の男性が言い争っていた。
何?この状況はなんなの!?
さっきの意気込みはどこかに飛んでいってしまった。
目の前の状況に困ってしまった私にある男性から、ひとつの提案が出された。
それは私に踊る相手を選んでもらおう。と言うものだった。
私が踊りたいと思う相手の手を取る。
単純で解りやすい解決方法に全員が納得したみたいだけど、選ぶ私は大変だ。
ど、どーしよう・・・。
一体誰を選べばいいのだろう。
目の間にずらりと並べられた、私よりも大きくがっしりとした男性の手。
顔を見てもみんな仮面を付けているからみんな同じに見えるし・・・。
き、決められないよー!
いっその事全員に「ごめんなさい。」と断ろうか?それなら公平な気もするけど・・・返事としてあまりにも失礼な気もする。
う
並んだ手を見て必死に悩んでいた私の目に、一つ気になる手があった。
よしっ!
「この方と踊ります。」
自分の勘を信じてその手握って選ぶと、周りからは残念そうなため息が漏れた。
ごめんなさーい!!
心の中で必死に謝る。
でも、みんな育ちがいい人ばかりなんだろう。っていうか紳士だ。
私が選んだ答えに文句を言う人は、ひとりも無かった。
私に選ばれた金髪の男性は少し驚いていたけど、次の瞬間にはにっこりと笑って、
「・・・では、あちらへ参りましょうか。」
と私の手を握ってダンスの輪へと、優しくエスコートしてくれた。
踊っている人たちの邪魔にならない場所に、私の選んだ金髪の男性と向かい合って立つ。
すると、丁寧に腰を折り、
「私をお選びくださり、ありがとうございます。では改めて、私と踊って頂けますか?」
ときれいな手を差し伸べてくれた。
私はその手を取り、にっこりと微笑んで
「もちろんよろこんで。トラップ。」
と返事を返した。
「えっ・・・・!?」
私の返事に仮面の下で、大いに驚いてくれた金髪の男性。
しばらく沈黙の後、観念したのか仮面を取って被っていたカツラを脱いだ。
「・・・なんで解ったんだよ?」
「んー。へへっ・・・内緒!」
せっかくヅラまで被ったのにっ!とか何とか言って悔しがっているトラップ。
ふふふ。実は、沢山の男性の中から選ぶ時は私も気づいてなかったんだよね。
なんとなく、目に付いた手を選んだもん。
でもね、手を握ったら解ってしまった。
あ、トラップだ。って!
トラップは脱いだカツラを、近くにいたメイドさんに預けると戻ってきた。
「メイドさん、あんなもの渡されて驚いてるよ?」
「いーんだよ。あんなかゆいもん、被ってられねー!」
・・・今まで被ってたのに。なに言ってんだか。
でも、カツラを脱いでいつもの赤毛に戻ったトラップを見て改めて思う。
トラップて、どんな服でも簡単に着こなしちゃうんだよね。
今着ているのは黒いスーツっていても、中にきちんとベストも着てすごく立派なスーツだ。
肩には黒いマントが金の止め具で止まっている。
すごくかっこいい!
ニコニコしながらトラップを見ていると
「なんだよ!?じろじろ見んじゃねーよ!」
と叱られた。っていうよりも照れてるのかな?
「衣装よく似合ってるよ。トラップが選んだの?」
「いや、ミモザ女王の目立てだって着せられた。」
「トラップも!?」
あら?もしかしてミモザ女王、私達全員の分を選んでくれたのかなぁ?
そんな事考えていると、トラップは仮面を付けながらニヤッと笑って。
「おめぇも、意外と似合ってるぜ?」
「!!!意外とってなによぉー!」
くそー!やっぱり笑われた!!
「おらおら、せっかくそんな格好してんのに、んな顔すんじゃねーよ。」
そう言うと私の手を取って、
「んじゃ、踊りますか!」
「うんっ!!」
私とトラップはダンスの輪の中へと入っていった。
******
踊り終わった後で、パーティのみんなと無事合流した私達。
・・・なんだけど、みんなボケーっと口をあけて私とトラップを見ている。
「???どーしたの?みんな。」
私達の衣装が変なのかな?
そんな心配をしているとクレイが説明してくれた。
「なんて言うか・・・、トラップとパステルはお互いパートナーですっ!て感じ・・・」
「はあぁあ?」
クレイが何を言いたいのかさっぱり解んない。
「お互いその衣装を選んだのは偶然ですか?」
キットンが聞いてくる。
「衣装?私とトラップの衣装はミモザ女王が見立ててくれて・・・ってみんなもそうじゃないの?」
みんな一斉に違う。と首を振る。
あれぇ?私とトラップの分だけってこと??
なんでだろう。
「鏡、見たら解ると思う。」
ノルが会場の壁に掛かった鏡を指差しながら言う。
恐る恐る、トラップを連れて鏡の前に二人で立ってみると。
ひゃー!!!なんだか二人並ぶと凄い迫力があった。
そう言えば、黒いドレスを着てる人って居なかった。黒いスーツの人は何人かいたと思うけどね。
みんな仮面舞踏会だからか、一段と華やかな色のドレスを着ている人が多い。
他のパーティメンバーも同じ。
つまり、私とトラップはミモザ女王に、対になっているドレスとスーツを着せられていたわけで・・・。
「やられた・・・・。」
トラップが隣で手を顔に当て呟く。
私はやられたっていうよりも、なんで私達にだけ?って感じなんだけど。
そんな二人を、生暖かい目で遠巻きに見てる他のメンバー。
「ま、あの二人で並んで立っていたら、邪魔者は絶対寄ってきませんね。」
とキットンが笑っていた。
おしまい。
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