ゆうゆうかんかん 悠悠閑閑
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前半を読んでない方はこちらを先にどうぞ!→癒えぬ傷跡
《癒えぬ傷跡・続》
お、俺は馬鹿か・・・・。
ついさっきの出来事と自分の行動に、ドッと後悔の念が押し寄せる。
情けねぇにも程がある。
あそこまでしといて逃げ出すなんて・・・・・。
馬鹿だ俺は・・・・・。
俺は家の前に立っている木にもたれながら、空を仰いだ。
吐く息は白く、夜風に連れ去られた。
はぁあああああ・・・・。
ったく。
調子狂う。
本当はあんな風に本気のプロポーズをするつもりなんか、さらさらに無かったんだ。
ただ、いつものようにパステルに嫌味を言って、怒った顔にちょっかいを出すつもりだったのに・・・・・。
気付いたら、
「俺が護ってやる」
そんな本音が零れてて・・・・・。
だああぁああっ!!
あんな台詞、俺のガラじゃねぇーっつーの!!!
しかも、しかも!!
いつもなら神業的な天然さで、『なんで?トラップが??』とか言って返してくるのに、今日は・・・・
『なんだか、プロポーズみたいだよ?』
・・・・・ちゃんと伝わってんじゃねぇーかっ!!
何でこんな時に限って伝わってんだよ!!??
だあああぁっっくっそー!!!
本気で調子狂うっちまう。
馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ・・・・・・!!
俺は馬鹿だぁあっ!!
うがあぁあぁぁー!
「情けねぇ・・・・・・・。」
ポツリと呟いた俺の懺悔も同じように、闇へと吸い込まれていった。
俺はなんであんなに弱気になってたんだ?
あの時・・・・・
風呂から上がって部屋に入るとクレイは居なくて、代わりに終わりの無い暗闇が俺を待っていた。
今から考えるとただ、カーテンも閉まっていて外の景色が一切入ってこなかった事と、今日が新月だったって事。
ただそれだけの理由。
でも、俺の心を揺さぶるには簡単な罠。
俺は少しでも明かりが欲しくてカーテンを引いて月を探した。
別に満月じゃなくっても良かったんだ。
今にも消えてしまいそうな細い細い三日月でも・・・・。
俺の目に映ってくれさえすれば、そこに居てさえくれたら。
しかし、そこには闇があるだけだった。
ただただ、深い闇が・・・・・・・。
ドクンッ
変な焦燥感が体を駆け巡った。
いつもそこにあると思っていたものが、ある日忽然と姿を消したような虚無感。
大切なもの達が、いとも簡単にこの手をすり抜けて落ちていくような・・・・・・・。
そんな漠然とした不安が、俺の中の闇を浮かび上がらせたんだ。
今、冷静になれば馬鹿らしいにも程がある。
闇にビビッてたんだからな。
冒険者が聞いて呆れるぜ。
あーあ!
本当にいろいろ情けねぇーなー、俺。
でも、あそこで飛び出しといて正解と言えば正解だったのかも知れねぇ。
なぜなら、あの現場をクレイに目撃されてた可能性もあったんだ。
そこまで考えて、背筋に嫌な汗が流れる。
っあっぶねぇー!!
それこそ冗談じゃねぇー!
ってか、冗談にならねぇ。
パステル、怒ってんだろーな。
ふと、パステルの石鹸の香りがしてさっきの出来事を思い出す。
空耳ならぬ空匂い?
・・・・・相当来てんのか?俺は。
そんな自分に呆れていると、今度はちゃんと鼻が匂いを拾ってきた。
「パステル!?」
あわてて振り返るとそこには、パステルとは似ても似つかないずんぐりむっくりした男。
「・・・・・なんだよ。キットン。」
こいつから石鹸の匂いがするなんて想像つかねぇけど、明らかにキットンから匂ってくる。
・・・いや。
キットンから匂ってきても、俺の理性はちっとも揺らがねぇけどよ?
揺らいだらそれこそ、相当ヤバイだろ俺。
「ぐふっふっふっふ!トラップ、ダメじゃないですかー逃げたりしちゃぁ。」
キットンから出た言葉に背筋が凍る。
こ、こいつ・・・・まさか・・・・。
「な、何の事だよキットン?」
「壁に耳あり。扉に目あり。ですよ?」
一切悪びれない態度にイラッとくる。
「聞いてたってか?」
「いやぁー。あのままトラップが頑張る様でしたらクレイを引き止めるべく、私が一肌脱ごうと思っていたんですがねぇ。ぎゃっはっはっはっは!」
「うっせぇーよ!大きなお世話だっ!!」
「ぎゃっはっはっはっは!!!しかも、パステルの匂いがしただけで振り向くなんて、ベタ惚れですね、ベタ惚れ!!」
「だから、うっせぇーつうの!なんだよ!おめぇはスグリの匂いで振り向かねぇのかよっ!!」
だぁあっ!イライラするっ!!
「もちろん、振り向きますよ?当然でしょ?」
「・・・・・・・・。」
そんな堂々と・・・・・恥じらいとかねぇのかよ。
お前には。
「・・・・・あっそ。」
なんだか、こいつに付き合うのもめんどくせぇ。
だんだん体も冷えてきたし、そろそろ家に戻ろ・・・・。
「ん・・・・・!?」
玄関に向かって歩いてキットンとすれ違った時に、俺は変な違和感を感じた。
・・・・キットンから石鹸の匂いがしねぇ。
いや。でもさっき確かにこいつから匂いがしてきたのに?
「・・・・キットン、風呂入ったんじゃねぇの?」
「はい?もちろん入ってませんよ?」
「威張んじゃねぇーよ!ったく。じゃあさっきの匂いは・・・・?」
もしかして、あいつも外にいるのか?
ぐるりと見渡すが、パステルの姿は何処にもない。
「ふふふっ!さっきのは、私の素晴らしいプンスー魔法です!!」
「・・・・・しょーもねぇ。」
一気に脱力。
「たかがそんな匂いのために魔法を使ってんじゃねぇーよ!」
ゴツンと拳骨を落とすと、文句を言いながらも負けじと言い返してきた。
「何を言ってるんですか!?愛しい人の匂いと言うものは精神安定剤になるんですよ!?
まるで此処にいてるかのように、目には見えなくても触れられなくっても絶対的な安心が得られる、存在を感じられる大切なものなんです!
現にあなたも石鹸の匂いだけでパステルを連想したではありませんか!!」
「ぅぐっ、そうだけどよぉ・・・。なんか、変態臭いぞおめぇ・・・・。」
「私の事は良いんです!それよりもトラップ。
ちゃんとパステルにフォロー入れないと後々、面倒な事になりますよ?」
「それこそ、おめぇには関係ねぇだろっ!!」
くそぉー。
こいつは痛いとこ突いてくんじゃねぇよ!
「・・・・トラップは何を躊躇っているのですか?いつまでも悪戯に誤魔化してなんかいないで、パステルに正直に話してみてはどうですか?不安で仕方ないって。」
「ばっ!!んな事言えるか!笑われるのがオチだろ!?」
「パステルは笑ったりしません。そう言う子でしょ?」
「・・・・・・・・・。」
「ありのままの貴方もちゃんと受け止めてくれる。パステルはそう言う子です。きっと貴方一人で抱えている方がパステルも辛いと思いますよ?トラップ、貴方の今の気持ちを正直に打ち明けてみてはどうですか?」
「・・・・・・・・・。」
「パステルはまだ起きてると思いますよ。さっきリビングに居てましたから。私は先に休みます。」
そう言って俺に背を向けて玄関に向かう背中に口を開く。
「・・・・・さんきゅ。キットン。」
キットンは少し振り返りながらいつもの笑顔で
「おやすみなさい。」
そう言うと玄関の中へと消えた。
あいつにちゃんと話そう。
そして、もうしばらくプロポーズは先送りにしよう。
別に逃げるわけじゃねぇ。
ただ今は、俺の正直な話を聞いて欲しいだけだ。
癒えぬ傷跡の先にある未来は真っ暗闇だけじゃねぇ。
それを教えてくれたあいつに。
パステルに出会えた幸せをかみ締めながら俺は玄関をくぐった。
癒えぬ傷跡と共に歩いていくお前が好きだと。
おしまい。
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ssは、素敵なイラストをプレゼントしてくださったとりさんに捧げます!!
設定としては、結婚後のトラパスです。
《青と緑の似合う人》
「わぁ!すっごく安ーい!!」
一人で買い物途中、思わず目を引く安さに私は、一軒の店へと吸い寄せられて行った。
体って正直なもので、気が付いた時には商品を手に握りしめていた。
あははははー!
私、こう言うところは昔から成長してないよね。
貧乏パーティの頃に染み付いた感覚は、簡単には無くならないみたい。
今はパーティも解散し、トラップと結婚した私はドーマで二人暮らし中。
昔みたいなジリ貧生活じゃないのに・・・・・相変わらず安いものに弱いんだよね。
トホホホ・・・・。
「おやおや!トラップ坊ん所の若奥さんじゃないか。どうだいそれ!安いだろ?
いやぁー。間違って大量発注しちゃってねぇ、返品は聞かないっていうからさぁ。
仕方なく、特別セール実施中なんだよ!」
なるほど。それでこんなに安いのかぁ。
私がさっきから何を握りしめているかというと、実は『毛糸だま』なんだな。
なんと1玉、5Gだって!!
破格の値段だよね!!
これは買わなきゃ勿体無いよ!!
「買います!ください!!」
お店のおばさんは「ありがとね!」と紙袋に詰めてくれた。
私がこの毛糸を気に入ったのは安さだけじゃなく、色がとっても綺麗だったからなんだ。
空の青と草の緑が綺麗に合わさった、澄んだ青緑色。
うん!
きっと、トラップに似合うと思う。
ドーマの冬は厳しいから、あったかいマフラーを編んであげよっと。
今トラップは冒険に出ていて留守で、最低でも後一週間は帰ってこないんだよね。
だから、トラップが帰ってくるまでには仕上がるはずだもん。
丁度小説の方も一段落しているし、なにより・・・・・トラップのいない寂しさを紛らわす、良い方法かもしれない。
自分も冒険に出ている時は気付かなかったんだけど、ただ待つのって結構辛いんだよね。
家で一人ポツンと居てると会話も無いし、何をしていても一人で実は寂しい。
小説を書いたりもしているけど、気が付くといつもトラップの事を考えてる。
今何してるかな?
何処にいてるのかな?
トラブル起こしてないかな?
怪我してないかな?
・・・・・・トラップも私の事、思い出したりしてくれているのかな・・・・・。
そしていつも必ず最後に願う。
『無事に帰ってきますように・・・・・。』
と。
トラップが元気に帰ってきてくれるんだったら、私、寂しいの我慢してちゃんと待ってるからね。
いつもそんな風に思うんだ。
最近、リタが言ってた言葉をよく思い出す。
『パステルたちが無事に帰ってきてくれるとすっごく嬉しいよ!私は待つことしか出来ないけど、私は必ずここに居るからさ。ちゃんと待ってるから、いつでも帰っておいでよ!』
そう言って、冒険から帰ってきて猪鹿亭に行くとリタは、嬉しそうな泣きそうな顔で笑ってくれていた。
私を待ってくれている人がいる。
帰る場所がある。
それはとても心強い事実・・・・・・。
彼にとっても、そうであって欲しいと思う。
黙々と編み続ける事、5日目。
ついにマフラーは完成した。
したんだけど・・・・・問題がひとつ。
私、本当にただ黙々と編んでたのね。
何も考えずに。
そしたらなんと、すっごく長いロングマフラーが出来上がってしまった!!
どうしよう!?
あの時、毛糸玉を私は20玉買ったのね。
それだけ買っても、たった100Gだったんだもん!
あああぁ・・・・・。
それにしても失敗したぁ。
20玉全部使っちゃうなんて・・・・・。
こんなに長いマフラー、トラップは使ってくれないかもしれない。
試しに自分の首に巻いてみると、マフラーの端が床に着く。
歩くとズルズルと引きずっちゃう。
トラップの身長なら引きずる事は無いにしても・・・・・これは実用性に欠け過ぎるよね。
がっくりと肩を落としていると、急に表が騒がしくなった。
ん・・・・!?この声は・・・。
も、もしかして!!
慌てて窓から外の様子を覗くと、見慣れた盗賊団の姿を確認できた。
そして、逢いたいと思っていた彼の姿も。
予定より早い帰還に嬉しくなって、マフラーを握りしめたまま外へと飛び出す。
「トラップ!!お帰り!!」
「おぉっ!?よくわかったな。」
勢いよく玄関の扉を開くと、そこには驚いた表情のトラップが立っていた。
「怪我は無い?」
無事に帰ってきてくれたことに安堵しながらも、トラップの体を観察する。
あちこちボロボロになった服が冒険の過酷さを物語っていた。
「あぁ。服はあちこちボロボロになっちまったが、怪我はしてねぇよ。」
「そっか!良かった。おかえり、トラップ!」
トラップの言葉に安心して、やっと心から嬉しい笑顔になれる。
「おぅ!ただいま。・・・・それにしても、おめぇさっきから何持ってんだソレ。」
トラップが言ってるのは、もちろんあの無駄に長いマフラーの事。
「あはは・・・!コレねー。トラップにマフラーを編んでたんだけど、失敗しちゃった!」
えへへー。と笑う。
一人の時は自分の失敗に情けない気持ちで一杯だったけど、なんだかトラップの顔を見たら大した事じゃない気がしてきた。
それはきっと、トラップが無事に帰ってきてくれた嬉しい気持ちのほうが強いからかな。
「ぶっ!おまっ!それがマフラー??だーっははっはっは!!!どんだけ長いんだよ!?」
昔と変わらないトラップの無邪気な笑い声に嬉しくなりつつも、あえて頬を膨らます。
「だから、失敗しちゃったの!」
もう!トラップ笑いすぎー!!
「だっはははははっ!おめぇが編み物で失敗なんて珍しいなー。ぷぷっ!」
「だって、いろいろ考え事しながら編んでたら気付かなくって・・・・。トラップ笑いすぎだってば。」
私の言葉に片眉をピッと上げたかと思うと、にやりとイタズラそうに笑う。
「何?俺が居なくって寂しかったから?」
「ち、違うもん!!小説の事で・・・・」
「ふーん?俺はずっとおめぇに逢いたかったけど?」
反則的な言葉をこぼしながら、トラップは私の手からスルスルとマフラーを手繰り寄せていく。
「うっ。・・・・・・私もトラップに逢いたかった・・・よ?」
トラップはズルイ。
この長いマフラーの様に、私はトラップの思うがままに操られてしまう。
するん・・・!
長いマフラーの最後の端っこが私の手をすり抜けて、全てトラップの手の中に収まった。
「しかしほんっとーに、長いなぁコレ!」
そう言って自分の首に巻き始めた。
えぇっ!?トラップ、使ってくれるのー!!??
「トラップ!いいよ!やっぱり長すぎるもん。私、編み直すからさ!」
トラップの身長を持ってしても、やはり長すぎるマフラー。
ダランと垂れたマフラーが、不器用すぎる自分と重なる。
「確かに長すぎだな。こりゃ。」
くっくっく。と笑いながら「じゃあさ。」と言って、余ったマフラーを持ち上げる。
ぽふっ。
くるん!
「え・・・・・!?」
突然トラップに後ろ向きにされた私は、自分の首を見下ろして確認する。
そこには、トラップの首に巻かれた綺麗な青緑色のマフラーと同じものが巻かれていて・・・・。
「おおー!ぴったり!!」
後ろからトラップに抱きしめられて、ひとつのマフラーで繋がれた体。
背中にトラップの体温を感じて、ドキドキする。
「ト、トラップ・・・?」
「このマフラー、一人で使うには長すぎっけど、2人で使うならぴったりの長さだぜ?」
ちらっと肩越しに後ろを振り返ると、トラップの首から伸びた澄んだ青緑色はそのまま私を繋ぎとめていた。
「本当だ・・・・。」
2人で巻いても窮屈に感じない、心地良い距離を感じるそんな絶妙な長さ。
後ろからまわされたままのトラップの手を、きゅっと握る。
マフラーの力だけじゃなくって、自分の力でトラップを繋ぎ止めようと。
「いい色のマフラーだな。」
後ろから嬉しそうな声がして、前を向いたまま私も笑う。
「うん!絶対トラップに似合うと思ったんだ!綺麗な青緑色でしょ?」
「ん?俺はおめぇに似合うなぁって思ったけど?」
「ええっ!?そう???」
驚いて改めてマフラーを見つめる。
そうかな?私にも似合うのかな・・・・?
空の青と草の緑。
私の大好きな色。
だって、大好きな人を思い出させてくれる色だから。
うん!
やっぱりトラップに似合うと思う。
綺麗な赤毛によく映える青緑。
・・・・本当に私、トラップに逢いたくて仕方なかったんだ。
今日は素直に甘えてみようかな。
トラップの嬉しそうな勝ち誇ったような顔がチラついて、ちょっと釈然としないけど。
そこで私は小さなイタズラを思いついた。
「ふふふっ!」
「・・・・なんだよ?いきなり。」
突然笑い出した私を、訝しげに覗き込むトラップ。
「あのね!このマフラーがブーツ家代々の、ありがたーいマフラーだったら面白いなぁと思って!」
ふふふっと笑うと、耳元で不機嫌そうな声がする。
「・・・・・その話はもう忘れろっ!!!」
小さな悪戯。
いつもトラップの思うがままにされてしまうから、ささやかな反抗。
ごめんね?
もう意地を張らずに、素直になるから許してね?
ゆっくりと振り向くと、拗ねたトラップの顔が見えて頬が緩む。
2人を繋ぎとめてくれているマフラーを、くいっ!と手繰り寄せるとそのままトラップの顔が近づいてくる。
ちゅっ。
軽く唇に触れるだけのキス。
トラップの瞳を見つめながら、にっこり笑う。
「私も、すっごく逢いたかったよ。トラップ!」
おしまい。
とりさん!
本当に素敵なイラスト、ありがとうござました!!!
戻る
《クリスマス・イブ☆》
「ねぇパステル!明日の放課後って空いてる?」
「え?明日?」
今日は12月24日、クリスマス・イブ。
今年最後の授業が終わってみんなが帰り支度を始めてる時、突然声を掛けれらた。
声を掛けてきたのは親友のリタだった。
リタとは高校入学して以来仲良しで、1年生2年生とずっとクラスメイトなんだよね。
そして、私の大切な親友の一人でもある。
「そ。明日終業式が終わってからさ、みんなでクリスマスパーティしようかって話になったんだけど、どう?」
「うーん。明日は少しクラブに顔出してからバイトなんだよねー。」
私は両親が数年前に事故で他界して以来、学校の近くに一人暮らし中。
両親が残してくれたお金もあるんだけど、甘えてたらすぐ無くなっちゃうもんね。
だから、学校が終わってからの平日や土日もほとんどバイト三昧な毎日を送ってたりする。
・・・・もちろん。クリスマスも。
いやっ。
もしも彼氏とか居たら、また違ったクリスマスを送ってるかもしれないけどさ?
いないんだもん。
バイトが恋人みたいな感じかなぁ・・・。
今は。
うーん。寂しいぞ私!
「そっかぁ。やっぱりバイト入ってるよねぇ・・・。もっと早く決めてれば良かったね。」
リタも私の生活状況をよく理解してくれてるから「休んじゃえば?」なんて軽い事は絶対言わない。
しかも、彼女の家が自営業だからなおさらだよね。
「うん・・・。ごめんね?でもリタはお店の方、大丈夫なの?」
通学鞄に学校に置きっぱなしだった教科書を詰めながら聞く。
明日は終業式だけだからね、どうせ荷物も多いだろうし今日中に教科書は持って帰らなくっちゃ。
「あー。私はね、店が落ち着いてから参加するから・・・。ってそうだよ!!」
いきなりリタに肩をバシンと叩かれて、びっくり!
しかも・・・
「リタ!痛いって!」
「あはははっ!ごめんごめん!すっかり忘れてたけど、私も店が落ち着いてから行くんだから、パステルもバイトが終わってから参加すればいいじゃない!!ね?」
リタがニコニコしながら「そうだよ!それなら問題ないよね!」と、私が『行く』とか言う前に参加が決定しそうな勢いだ。
「えぇ!?バイト終わってからって9時過ぎるよ!?そんなに遅くにどこでするの?っていうか、誰が来るの?そのパーティには。」
いくらクリスマスとは言え、私達の身分は高校生な訳で・・・・そんな時間に遊べる所なんてあるのかなぁ?
「あぁ!あのね場所はマリーナの家だって!今日から両親が急に海外に行く事になったから急遽決まったの。
メンバーもいつもと一緒。パステル、私、マリーナ、クレイにトラップ!」
なるほど!
マリーナは1年生の時同じクラスで仲良くなって以来、今も友達。
私のもう一人の親友でもあるしね。
トラップは2年生になって初めて同じクラスになったから、今現在クラスメイト。
男の子にしたら仲はいいと思うよ?
同じクラブだし、委員も同じだからね。
普段トラップとは、口ケンカばっかりしてるけど。あはははっ。
でもって、マリーナのお兄ちゃんでもある。
この2人は双子じゃなくって年子なんだって。
同学年の年子。
傍から見てても仲の良い兄妹で、とっても羨ましい。
私は一人っ子だったからね。
そしてクレイは実は、先輩だったりする。
一コ年上なんだけど、マリーナとトラップの幼馴染で3人は本当に凄く仲良しなんだよね!
しかも現生徒会長で、女の子からの人気NO.1!
クレイと話してるだけで、羨望のまなざしでみられてしまうくらいに。
この3人と私とリタ。
何も無くっても自然と集まる5人組で、私の学校生活はこの4人と過ごすことがほとんど。
気兼ねしなくてすむ、心地良い私の居場所になっている。
こんなメンバーでクリスマスを過ごすなんて、すっごく楽しみ!
・・・なによりひとりで過ごすクリスマスは、過去に楽しい思い出がある分、いつも寂しさで一杯になる。
「そっか。じゃあ私も参加させて!バイトが終わったら駆けつけるから!」
「うん!マリーナ達にもそう伝えとくね!で、今日はクラブは行くの?」
「ううん。今日はこのままバイトに行ってくる。・・・・って!もうこんな時間!?ヤバイ!ごめんリタ、トラップに今日はクラブ休むって伝えといてくれる?」
コートを羽織って鞄を握り締め、教室のドアに向かいながらリタに頼むと、
「おっけー!あそこで寝てるバカに伝えとけばいいのね?」
くいっとリタが指差した先には、授業はとっくの昔に終わってるのに寝続けてるトラップの姿が・・・。
ちらっと横目でその姿を捉えて、すぐに視線をリタに戻す。
私は苦笑いをしながら
「うん!悪いけどよろしくね!マリーナに明日、楽しみにしてるからって伝えといてー!」
そう、教室のドアから叫ぶと
「わかったから!早く行かないと遅刻するよー!」
リタが分かったから!と笑って叫び返してくれた。
「わわわっ!本当だ!じゃ、行ってくるねー!」
「うん!気を付けてね!がんばれー!」
「はーい!!」
もう最後の返事は廊下を走りながらだったけど、きっとリタには届いたと思う。
そして、私の頬が勝手ににやけてくる。
クリスマスパーティ!
わあぁぁっ・・・!!
楽しみで、楽しみで仕方がない。
クリスマスがこんなに待ち遠しくなるのは何年ぶりだろう!?
すっごく、わくわくする!!
みんなで過ごすクリスマスは間違いなく、楽しいはずだもんね!
よーし!
明日は楽しいクリスマスだもん!
今日のバイトも頑張ろっと!!
楽しみな事があるだけで、周りの景色もいつもと違って見える。
走り抜けていく12月の冷たい風も、今の私にはまったく寒くなかった。
うん!
明日がすっごく、楽しみ!!!
つづき↓
メリー・クリスマス!
《Merry Christmas!》
今日は12月25日、クリスマス!
さむーい体育館でのながーい終業式も終わって、教室に戻るとトラップが声を掛けてきた。
「なぁ。おめぇ、今日はクラブ行くのか?」
「うん!行くよー。トラップも行くでしょ?」
私とトラップは2人とも、弓道部に所属してたりする。
この高校に入学した時、本当はクラブなんてするつもり無かったんだよね。実は。
放課後は全部、バイトに充てるつもりだったから。
でも、新入生クラブ説明会ではじめて見た弓道の袴姿とか、弓を引いている姿にすごく興味を持ってつい、弓道場を覗いてしまったのが最後。
気がついた時には入部していた。
そうそう。
ちょうど、この時にマリーナと友達になったんだっけ。
この時の詳しい話は機会があれば。と言う事で・・・。
「おう。じゃあ一緒に昼飯食うか。」
「そーだね!食堂行く?」
「だな。今日は絶対空いてっから食堂の方がいいだろ。」
今日は終業式だから、いつも混み合ってる食堂もガラガラだと思う。
「うん。お腹すいたー。私さ、終業式の最中もお腹グーグーなっちゃって、どうしようかと思ったもん。」
あはははー。と笑いながらトラップに暴露すると、
「色気のねぇー奴だな!」
と、頭を小突かれた。
もう!
「色気が無くって悪かったわね!それより、ご飯食べに行こう。本当にお腹すいちゃった。」
鞄を持って廊下に出ると、後ろからトラップも私に付いて教室を出て来た。
「・・・本気で色気ゼロ。」
・・・コイツはまだ言うか!!
失礼な事言う奴はほっといて、先にご飯食べに行っちゃうからね!?
「はいはい。置いてくよー。」
こんなのはいつもの事。
そう、トラップの言葉を無視して廊下をズンズン進んで行くと、後ろから必死に笑いをかみ殺したトラップの声が。
「・・・・・・食堂、逆だけど?」
!!!!!!
くるん!
と私は180°綺麗にターンをして、スタスタと急ぎ足で再びトラップの前を通り過ぎる。
自分のほっぺが真っ赤になるのが分かる。
「ぶっっははははっは!!!おめぇ、相変わらずだな!どこ行くつもりだったんだよ!?」
く、くそぉ
今や、トラップの笑い声は廊下に響き渡っていた。
どこ行くつもりって・・・!!
「食堂っ!!!」
そう叫び返した私を今度はトラップがスタスタと簡単に追い抜いていった。
「あっそ。一人で行けるんだな?じゃ、先に行っとくわー。」
「ちょっ!!待ってよ、トラップー!」
********
「・・・・ひどい。本当に先に行くなんて・・・・。」
「・・・・まだ言ってんのか。」
お昼ごはんも終わって弓道場で、トラップに弓に弦を張るのを手伝ってもらいながらぼやく。
あの後、トラップに置いていかれて私は見事に迷子になってしまったのだ。
方向音痴の自分が情けなくって嫌になってしまう。
結局トラップに見つけてもらうまで、一人、校舎をさまよう事になってしまった・・・・・。
「はあああぁ。何か今日良い事無いかなぁ。」
思わずそう呟いた私の言葉に、トラップはピッと眉をあげると、
「今日、おめぇもパーティ来るんだろ?」
と、素敵な事を思い出させてくれた。
「ああっ!そうだった!!」
思わず大きな声で叫んでしまって、「しまった!」と口を押さえるけど時すでに遅し。
弓道場で大声を出すなんて・・・・!!
トラップにも『かけ』(弓を引く時にする硬い手袋)を付けた右手で頭を叩かれてしまった。
ゴツっと鈍い音がする。
「いっ!いたーい。」
痛さを我慢して、小声で呟くと
「うっせぇ。」
と、再びゴツッ!
コ、コイツはー!!人の頭を一日に何度も叩きおって!!
大声を出した私が悪いけど、叩かなくってもいいでしょーが!
キッ!と睨んでやる。
「おめぇ、昨日あんなに楽しみだー!って言ってたくせに、もう忘れてんのか!?」
「うう・・・。そうだけど・・・。」
って、あれ?
昨日リタと話してた時、トラップ寝てたよね?
何で知ってるんだろう?
・・・・・リタに聞いたのかなぁ。
まぁいいや。
バイトに行くまであんまり時間も無いし、時間が勿体無い。
今は弓道に集中しよっと。
2時間ほどクラブに参加して、袴から制服に着替えるとバイトの時間が差し迫っていた。
や、やばい!!
昨日と同じパターンだよ!
バイト先までダッシュで行かなきゃ!!
急いで弓道場に荷物を取りに戻ると、トラップが袴姿のまま私の荷物を持って立っていた。
ええぇっ!!??
何?珍しい。
槍でも降ってくんじゃないの???
でも一刻を争う今、トラップの行動は私にとって、凄くありがたいものだった。
「ありがとう!!トラップ!助かったよ!!じゃあね!」
トラップにお礼を言って早々に荷物を受け取ると、走り出した私にトラップが待ったをかけた。
ええぇーっ!?
時間ないんですけど・・・!
「な、何?」
そう言いながらも、私の足は校門に向かってる。
「お前、今日バイト何時に終わるんだ!?」
トラップが叫んでる。
ああ。
そっか。パーティの事か。
でも、足は止まらない。って言うか止めれない。
じ、時間が!!
一生懸命私も叫び返す。
「9時ぃ
「じゃあ!今日バイト終わったら・・・・・・!!!」
もう無理!
トラップが何か叫んでたけど時間が限界だった。
「ごめーん!!!バイト終わったら連絡するからー!!あとでねー!!」
それだけ、トラップに向かって必死に叫ぶと私は、返事も聞かずに走り出した。
ごめん!
トラップ!!
続きはパーティの時にでもちゃんと聞くから!!
そう、心の中でトラップに謝りながら。
*********
し、信じられない・・・・。
何でこんな日に限って・・・・。
9時あがりだったはずなのに、忙しくって今や10時・・・・。
もしかしてもう、パーティは終わってしまってるかもしれない・・・・・。
連絡も出来なくってみんな、心配してるかなぁ。
「はあああぁあ・・・。」
やっと仕事も終わって制服に着替えて外に出ると、冷たい風が一気に吹き付けてきた。
「さっ!さぶいっ!!」
なんて寒さなの!?
こんなとこで突っ立ってても風引くだけだよ。
実は・・・・携帯の充電が切れてしまってて、連絡すら出来ない。
誰か迎えに来てくれてるかも・・・なんて甘い考えも浮かんだけど・・・・。
賑やかな街を行き交う人は沢山いるけれど、見知った顔はその中に無かった。
どうしよう・・・。
こんな重ね重ねトラブルが続くなんて・・・・・
「はあああああぁ・・・・。」
何度目かのため息が出る。
みんなの携帯番号は覚えてないし、マリーナの家はどこにあるのか知らないし、リタの店はここから遠いし・・・。
パーティ、行きたかったな。
「はあああああぁ。」
街中は綺麗なイルミネーションに飾られて、カップルや家族の幸せそうな笑い声で溢れている。
なのに、私だけ一人だった。
どうしようもないよね・・・・。
家に帰れば充電器があるし、それから謝りの電話をしよう。
そう決めてキラキラと光り輝く街をひとり、ポツリポツリと家路に向かう。
「さむい・・・。」
吐く息はどこまでも白い。
・・・・こんな事なら、クリスマスパーティに行くなんて約束しなければ良かった。
マリーナ達の笑顔が浮かんでは消えていく。
楽しみにしていた分、行けなくなった落胆も大きいし・・・・。
みんなと過ごすクリスマスはきっと、楽しかったに違いないのに。
本当なら今頃、マリーナの家で笑顔な自分がいたんだろうな。
「はああああぁ・・。」
せっかく誘ってくれたのに・・・・。
今年もひとりぼっちのクリスマスか・・・・・。
つーんと鼻の奥が痛くなった。
(パステル!泣いたら余計に悲しいよ!我慢だよ!!)
必死に自分に言い聞かせる。
泣いても仕方ないって解ってる。
どうしようもない事、誰も悪くないんだ。
でも・・・・・ただクリスマスをみんなと一緒に過ごしたかった。
それだけで良かったのに・・・・。
静かにひとつ、涙が頬を伝って落ちた。
人ごみの中、一人立ち止まって俯いたまま唇をかみ締める。
なんて私は、この街に似合わないんだろう。
みんな幸せそうに笑ってるのに、どうして私は泣いてるんだろう。
どうして私だけ一人ぼっちなんだろう。
ふいに、タッタッタッタ!と大きな足音が聞こえて思わず顔を上げた。
その足音が自分に向かってきてる気がしたから・・・・。
「おとーさーん!!待ってよー!!」
タッタッタッタ!
背の高い男の人が顔を上げた私の横を軽やかに走り去って行った。
そのすぐ後ろから、小さな女の子が笑顔で走ってくる。
「お父さん!待ってってばー!」
女の子のお父さんは私の少し後ろで、笑顔で女の子を待っていた。
「ここまでおいで!」
そう、差し出された手に飛び込んでいく小さな女の子。
お父さんの大きな腕に抱き上げられ、弾けんばかりの笑顔で、幸せそうに笑い合う親子。
女の子の笑顔がずっと昔の記憶の中の自分と重なった。
「お父さん・・・・。お母さん・・・・・。」
我慢できずに声に出して呟く。
愛しい人を呼んでしまったら、もう・・・・
涙は止まらずにあふれ出し、目の前は一気に霞んでよく見えなくなってしまった。
瞼の裏のお父さんとお母さんの笑顔さえも霞んでいく。
「うっ・・・・。ううっ。いやだよぉ・・・・。」
寂しい。
寂しすぎて、潰れてしまいそう。
もう。
涙を止める気力も、ここから歩き出す元気もない。
ただ、立ち尽くして泣く事だけ。
きっと、すれ違う人たちは物珍しい物でも見るように通り過ぎて行くのだろう。
そうなんだ・・・・。
みんな私を通り過ぎて行ってしまうんだ・・・・・。
私の為に立ち止まってくれる人はもう、この世にはいない。
「ひっく・・・・。ううぅ・・・・やだあぁあ・・・・。」
小さな子供のように大きな声で泣き叫びたくなった。
止めどなく溢れる涙。
「パステルッ!!!」
はっと顔を上げて息を呑む。
「・・・・っ!!」
涙で霞む瞳で必死にその姿を捕らえる。
「トラッ・・・プ?」
私が泣いているのがわったんだろう。
息を切らして走ってきたトラップの顔が険しくなる。
「なんかあったのか!?」
涙を拭いながら
「ううん・・・・。何も無い。だいじょ・・・ぶ。」
そう言って笑おうと思ったけど・・・・・上手に笑えなかった。
代わりに言いながら泣いてしまった。
「・・・・・どうした?」
ぽろぽろと泣き続ける私を心配そうに覗き込むトラップ。
そんなトラップの顔を見ていると、トラップになら素直に話せそうだと思った。
「あのね・・・・」
泣きながらトラップに説明する。
バイトの終わりが遅くなった事や携帯の充電が切れてしまった事。
すごくクリスマスパーティを楽しみにしてたのに、行けなくなってしまった。
そのせいで両親の事を思い出して心細かった事。
トラップは泣きながら話す私の話を辛抱強く聞いてくれた。
「トラップ・・・・私、寂しいよぉ・・・。私、いつも頑張って生きようと思ってここまで来たけど、やっぱり、一人は寂しいんだ。寂しすぎて時々、お父さん達に逢いに行きたくなる・・・・。」
そう言うとトラップは何も言わずに抱きしめてくれた。
ギュッと強く。
まるで、「行くな。」と言うように。
また、ぽろぽろと涙がこぼれる。
痛いほどに抱きしめてくれたトラップの力が、『一人じゃない』と教えてくれる。
「うぅう・・・。とらっぷぅ・・・・・。
でもね・・・・でもやっぱりいつも最後には、この世界で生きてたいと思うんだ。
一人はやっぱり寂しいけどトラップ達と居たら私、心から笑ってられるんだもん。」
きゅっとトラップの体にしがみつくと、更にぎゅっうと抱きしめてくれて。
不意に背中を『ポンポン』と優しく叩いたかと思うと、反対の手で、頭を優しくなでてくれた。
その手はまるでお父さんのように大きくて、力強くて・・・・。
もう一度、涙が溢れ出た・・・・。
トラップがいてくれる。
それだけで私は、小さな子供の様に声を出して泣く事が出来た。
気が済むまで泣き続けた私の頭をポンポンと叩いて、泣き止んだ私の顔を覗くと、
「今からパーティすっから、行くぞ!」
トラップは元気にそう言うと、ぐいっと私の手をつないでくれた。
ニヤッといつもの笑顔のトラップに連れられて人ごみの中をぐいぐい進んでいく・・・。
さっきまで一人じゃ歩けなかったのに、トラップがいるだけでこんなにも心強い。
誰かが傍にいるってスゴイ事・・・・!!!
って・・・・。
「ええぇー!?今から!?もしかしてみんな、待っててくれてるの???」
「みんなで一緒にパーティするっつっただろ?しかも、パーティするって言うだけであんなに嬉しそうな顔して喜んでる奴をほっといてケーキが食えるかっつーの!」
「ケーキも・・・?」
私の返事に不思議そうな顔のトラップ。
「クリスマスにケーキ食わねぇで、どうすんだよ?」
そのあまりに絶対厳守!!的な反応に自然と口元が緩む。
「あははは!何?その自信は?」
トラップとケーキってあんまり似合わないや。
「サンタの乗っかったケーキを食べてこそ、クリスマスだろーが。」
「あはは!サンタって!!それは別に威張る事じゃないでしょう?それに・・・・・・」
「それに、何だよ?」
「私、何年もケーキって食べてないや。クリスマスも、誕生日も。」
「・・・・・・・・・。」
両親が無くなった年のクリスマスからケーキは一度も食べてない。
「ケーキを貰った事はあったけど、・・・・どうしても食べられなかった。」
「・・・・・・・・・。」
「ケーキはね、きっと一人で食べても美味しくないんだと思う。・・・・・みんなで食べるから美味しいんだよね。」
「・・・・・・・・・。」
今は真っ直ぐ前を見て言える。
視線を感じて隣を見ればトラップと視線が合った。
「えへへ。」
そう笑うと、つないでない方の手からデコピンが飛んできた。
「いったぁーい!!」
「ばぁーか!ケーキくらい、いつでも食べれるだろーが。」
「へ!?」
「だあら!ケーキぐらい俺が付き合ってやるってんの!」
「トラップが!?」
信じらんない!
トラップがこんな優しい事言うなんて・・・・。
あまりの驚きに、口をあんぐり開けてトラップを見ていると一気にトラップの表情が険しくなった。
「ふん!もういい。今日の超有名パティシエ特性クリスマスケーキ、おめぇの分は無いからな!今更後悔しても遅いぜ!?」
「うわわわっ!!ごめん!トラップ。違うの!嬉しすぎて固まっちゃったの!!だからクリスマスケーキ、食べさせてください!!」
慌てて謝った私を訝しげに睨んでるトラップ。
そんな視線に負けじと笑顔で言う。
「ありがとね!トラップ、今度一緒にケーキ食べに行こうよ!ね?約束!!」
「けっ。げんきんな奴。」
今度は私がトラップの手を引っ張って走って行く。
「ほらほら!きっと、マリーナ達が待ってるよ!急ご!!」
「なんだよ!?泣いたり笑ったり忙しい奴だな。・・・・ってバカ!俺んちはそっちじゃねぇよ!」
ぐいっとトラップに引っ張られて、勢いよくトラップに激突してしまった。
「いたっあぁ・・・。」
激突したのはトラップの胸で。
ぎゅっ。
へ!?
気がついたら再びトラップの腕の中に捕らわれていた。
あれ?
さっきもこうして・・・・。
ぼっ!!!!
わ、私、さっきもトラップに抱きしめられてた・・・・よね・・・!?
いや!さっきのはきっと私が泣いてたからで・・・・・。
じゃあ、今は・・・?
「ト、トラップー?」
ドキドキして少し裏返った私の声。
「・・・・・約束。」
絞り出した様なトラップの声。
「え・・・?」
「約束。」
「約束?」
「ああ。・・・・今日からおめぇがもういいって言う日まで、誕生日もクリスマスもいつでも一緒にケーキ食べてやるから。約束する。」
「トラップ・・・・・。」
気にしててくれたのだろうか。
抱きしめられたトラップの体温といっしょに優しさで暖かくなる。
「うん・・・。約束。・・・ありがとう。トラップ。」
トラップの上着をきゅっと握る。
さっきよりは少し遠慮がちに・・・・ね。
だって意識しちゃったら急に恥ずかしくなったから。
「んで・・・俺からのクリスマスプレゼント。」
「プレゼント・・・??」
「そ!一回しか言わねぇからよく聞けよ!
「ええっ!!??」
「いいか!?」
「う、うんっ!」
「・・・・・おめぇは一人じゃねぇよ。だから俯くな。ちゃんと前を見て歩いていけ。
たまには振り返ってもいいから、立ち止まってもいいから。必ずその後は自分の足で歩いていけ。
・・・・・・・解ったか?」
「ひっく・・・・うぅうーわかったぁぁ・・・。」
せっかく涙は止まってたのに、トラップの言葉に再度流れ出す。
「んで。泣き虫パステル。泣きたくなったら俺んとこに来い。一人で泣くな。
以上!トラップ様からのありがたーいクリスマスプレゼント!・・・・受け取ったか?」
「うん!・・・ぅひっく。うん!うん!ありがとぅ・・・トラップ!」
泣きながらお礼を言うと、トラップの腕から開放されて、そのままトラップの手が私の頬をはさんだ。
涙でベショベショの顔を上げられて、トラップと目が合う。
泣き顔の私をにやりと笑うと、
「じゃ、おめぇからのプレゼント貰うわ。」
突然そんな事を言われて、頭が一気に真っ白になった。
・・・・だって私、クリスマスプレゼント用意してない事に気がついたんだもん!!
どうしよう!?
「ト、トラップ!!ごめん!私、プレゼント用意してないよ!!??」
相変わらず、トラップの両手に挟まれたままオタオタし始めた私を更に嬉しそうに見つめて
「大丈夫、ここにあるから。」
そう言ったかと思うと、さらににやりと笑って、
次の瞬間トラップの唇がゆっくりと近づいてくる。
「パステル、生まれてきてくれてありがとう。」
そう耳元で囁いたかと思うと、今まで見たこともない優しい笑顔のトラップがいて・・・・。
また涙が溢れ来る。
それじゃあ、また私が貰っちゃった事になるよ?
そう言って笑うと、
「やっと笑った。」
2人の笑顔が重なる聖なる夜。
きらめく夜空に祈りは降る。
静かにそっと・・・・・。
2人の上に。
Merrry Christmas!
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《虎トラブルトラップ!!》
新しい年を迎えて3日目の朝、事件は起きた。
「ぎ、ぎぼぢわるぃ・・・・み、みず・・・。」
この世のものとは思えないような声を絞り出してリビングに現れた人物。
顔は土気色だし、口元を常に手のひらで抑えている・・・『抑えてないと、何か出る。』そんな雰囲気。
それにいつもの身軽さはどこへやら。
足取りは重くフラフラだし・・・・これは明らかに二日酔い。
いや。
彼の場合、二日酔い処ではない。
大晦日から飲み続けてるから・・・・四日酔いかな?
今にも倒れそうな彼の心からの願いを聞き入れるべく、コップに冷たーい水を入れて差し出す。
ま。実際さっきまで倒れてたんだけどね。彼は。
「ほら、お水。トラップ大丈夫?」
やっとの思いでソファーに腰を落としたトラップは、虚ろな目線を泳がして水を捉えるとのろのろと手を伸ばしてきた。
あぁーあ。
今回の二日酔いは相当ヒドイ。
「トラップ、キットンにお薬貰ってきた?」
キットンの薬はよく利くみたいで、時々トラップがお世話になっているのを私は知っている。
「・・・・まだ・・・・水・・・おがわり・・・。」
うぇっ。と口を押さえながら差し出されたコップを受け取りながら、
「ちょっと。吐くならトイレに行ってよ!?」
そう注意しても、力無く帰ってきた返事は
「む・・・むり・・・水・・・」
だった。
もう。仕方ないなぁ。
トラップに水のおかわりを渡すと、私は階段へと向かう。
キットンに薬を貰う為に。
「トラップ。キットンにお薬貰ってくるから、そこで待っててよ?」
トラップの後ろ姿にそう声を掛けると、
「ぐぇ・・・。」
はぁああ。
なんとも情けない返事・・・・。
「キットン入るよー?」
コンコンとドアをノックして覗くと、机に向かってブツブツ言っているキットンがいた。
「ねぇ。トラップが二日酔いの薬が欲しいんだけど・・・キットン?」
さっきから話しかけているのに返事が無い。
キットンはずーっと、ブツブツ言って何かの薬を調合中みたい。
「ちょっと!キットン!聞いてるの!?」
肩をゆさゆさ揺らしてやる。
「わっ!?いきなり何するんですか!調合が・・・!!」
キットンの文句は続いてるけど、トラップの容態も一刻を争うんだから!!
(ただの二日酔いだけどね。)
「トラップが二日酔いでしんどいから、いつもの薬が欲しいんだって。ある?」
「なんですか!?そんな事で私の大切な実験を邪魔しないでください!
・・・まったく。そろそろ取りに来る頃だと思ってちゃんと用意してありますよ。
そこにある黒い丸薬がいつものです。トラップに渡してください。」
そう言って、机の隅に置かれた黒光りした丸薬を指差した。
「わかった!ありがと、キットン。」
薬を受け取ってドアに向かうとキットンに呼び止められた。
「パステル!酔いがひどい様ならトラップに、10粒くらい飲むように言ってください。」
「・・・・わかった。」
こんな不味そうな薬を10粒も?
私は絶対ごめんだけどね・・・・。
「トラップ、薬貰ってきたよ?」
リビングに戻ると、ソファーで相変わらずぐったりとトラップが倒れていた。
「・・・・トラップ?生きてる??」
コップに水を汲んでトラップの顔を覗き込むと、うっすらと目が開いた。
恨めしそうな視線で見上げてくる。
でもそんな目をしても、自業自得だもんね。
飲みすぎたあんたが悪いんでしょうーが。
「はい。キットンからお薬貰ってきたよ?10粒飲んでだってさ。」
薬と水を差し出すと、一気にトラップの目が見開かれた。
「じゅうっ!?・・・・・・おぇっ・・・」
気持ちはわかるけど、彼の行動に同情の余地は無い。
「そ。ほら!飲んだらすぐに楽になるんでしょ?一瞬の我慢なんだから頑張って飲んで!」
そう励ますと、渋々と体を起こして私から薬を受け取って口へ放り込む。
次の瞬間、私から水を奪い取ると一気に流し込んだ。
ゴクゴクゴク・・・。
「うえぇっ!クソまずっ!!うげぇぇぇ!」
流石キットンの薬は即効性があるのか、顔色が一瞬で良くなったのがわかる。
薬であの二日酔いが治るんだもん。
美味しくない事くらい、仕方ないんじゃないかぁ。
『良薬口に苦し』って言うもんね。
そんなトラップの様子を見守っていた私は、ある異変に気がついた。
「トラップ・・・?頭に何付けてるの?」
そう。
トラップの頭から黄色い丸いフワフワした物が現れて、ピクピクと動いている。
「あ??頭ー?」
そう言って自分の頭を触ったトラップの顔が固まる。
たぶん・・・・トラップの頭から耳が生えている。
信じられないけど。
あまりの出来事に時間が止まったんじゃないかと思うくらいの静けさが訪れた。
「ぱぁーるぅ!たらいまだおぅ!!」
元気一杯のルーミィの声で2人とも我に返る。
次の瞬間、みるみるとトラップの体が縮んでいった。
な!?何が起きてるのー!?
「ぱーるぅ?いないんかぁ?」
ひょっこりとドアから顔を覗かせたルーミィを呆然と見つめる。
「どーしたんら?ぱーるぅ。」
「パステルおねぇしゃん、どうしたデシか?」
2人の後ろからクレイとノルも「ただいまー。」と顔を出した。
その間もどんどん縮んでいくトラップ。
今や大きさはルーミィくらいになっていて・・・・しかも、全身からふわふわした黄色毛が・・・・
「パステル?そんな顔して何かあるのか?」
わらわらとみんながリビングに入って来てソファーに集まった頃には、トラップの大きさはシロちゃんよりも小さくなっていた。
「パステル!?なんなんだこれは?モンスターか?」
「かわいー!ぱーるぅ!!この子、なんて言うんだぁ?」
「・・・かわいいな。」
全身黄色い毛に覆われて黒い縞模様。
ふわふわの可愛い耳を付けて、うしろからは虎模様のしっぽも・・・・。
頭の髪の毛の部分だけは、彼のトレードマークでもある赤毛のままなんだけど。
そう!
まさに虎!!
・・・・大きさはかなり小さいけど。モルモットくらいの大きさかな。
「ト、トラップ!?どうしたの一体!!??」
そう叫んだ私の言葉に、クレイとノルの目がぎょっ!と見開かれる。
「トラップだって!?コレが!?何が起きたんだ?」
「トラップ・・・かわいいな。」
「とりゃー?ぬいぐるみみたいだおう!」
「トラップあんしゃんの匂いがするデシよ!」
鼻をくんくんと『虎トラップ』に向けてシロちゃんは嬉しそうにしっぽを振っている。
ルーミィが嬉しそうに近づいていく。
「ばかっ!ルーミィ!くるんじゃねぇーよ!」
虎トラップから焦った叫び声が聞こえる。
その声もかなり小さくて聞き取りづらい。
しかも、虎トラップは危うくルーミィに踏まれそうになっていて・・・・。
わわわ!
本当に危ないよ!
必死にちょろちょろと逃げ回っているから私達の足元を走るたびに、私達のバランスも崩れてしまいそうでトラップを踏んでしまいそうになる。
ノルに踏まれたら、ぺっちゃんこになっちゃうよ!
「トラップ!危ないから!!踏まれる前にこっちにおいで!」
そう手を差し伸べると、虎トラップは一目散に私の腕を駆け上って左肩に止まった。
いつもトラップがシロちゃんを肩に乗せているのと同じ場所。
「はぁっ!はぁっ!」
私の耳元で虎トラップの荒い息が聞こえてくる。
そんな虎トラップに恐る恐る声を掛け来たクレイ。
「本当に・・・トラップなのか?また、魔女に呪いをかけられたのか!?」
クレイの言葉に『フーッ!』と全身の毛を逆立てて
「ちげぇーよ!!犯人はあいつだ!キットンの薬のせいだっ!!」
「はい?私がどうかしましたか?おや。トラップの様子を見に来たのですが出かけたのでしょうか?でも変ですねぇ。さっきのはトラップの声だとおもったのですが?」
その声に全員が一斉に振り返る。
((((コイツガハンニンカ・・・))))
あまりの反応にキットンも驚いたらしく、
「はい?どうかされましたか?それにしてもトラップも懲りませんねぇ。酔いが治ったらまた出かけたのですか?」
「ふざけんじゃねぇー!!!」
トラップの叫び声が響き渡った。
「おや?トラップはどこですか?声はしますけど姿がありませんね。しかも、声もいつもより迫力に欠けてますし。」
「おまえ!!いい加減にしろよっ!?変な実験ばかりしやがって!懲りてねぇのはそっちだろーがっ!!」
「パステル。貴方の方から声がするのですが、トラップは一体どこに居てるのですか?」
「・・・・・・ここ。」
ちょん。と私の指差した先を見たキットン。
わなわなと震えていたかと思うといきなり、
「素晴らしいぃぃぃ!!」
と叫びながら私に飛びついてきた。
「きゃー!?ちょっと!キットン!くっつかないでよ!」
「うわっ!?パステル!!動くな!」
慌てて避けようと動いたものだから、肩に乗ったままの虎トラップの焦った声。
トラップを落とさないように手のひらで受け止める。
「「あ、あぶなかったぁー。」」
ほおぉー。とトラップと安堵のため息をついた横から、
「パステル!そのトラップを私に渡してください!!これは素晴らしいです!!しっかりデーターを取らなければ!!さあ!私の実験室に!!」
キットンの馬鹿でかい声が響く。
「う、うっせぇー!!!俺の耳にはおめえらの声はでか過ぎるんだよ!!耳がいてぇっ!」
両手・・・いや前足?で耳を塞いで、本当に辛そう。
「ほほう!やはり、動物ですからね!耳が人間の時よりも良いのでしょう!他はどうですか!?視力などは上がってますか!?」
まだデーターを取ろうとするキットンに、ついにクレイがキレた。
「キットン!!そんなことよりも解毒剤を作って来い!!さっさとトラップを元に戻すんだ!」
そう言ってクレイはキットンをリビングから放り出した。
「・・・・ったく!」
手をパンパントと叩きながらクレイは、少し小さめの声で虎トラップに話しかけた。
「トラップ、とりあえず元に戻る方法が分かるまで何かと大変だろうから、俺が面倒見てやるよ。」
そう言って私がしていたみたいに、自分の肩に虎トラップを乗せるとトラップが悲鳴を上げた。
「たっけぇー!クレイ!お前でか過ぎる!地面が遠くて怖い!!」
「ええぇー!?そんな事言われても身長は仕方ないだろ?」
「あほか!俺が落ちたらどうすんだよ!?パステルの方がいい!降ろしてくれ!」
必死にクレイの肩に爪を立てて捕まっているのか、クレイの顔が痛そうに歪む。
「はあぁ。・・・・パステル、こいつの面倒頼んでもいいか?」
「へ?あぁ。いいけど、私でいいの?トラップは。」
そっと、クレイから虎トラップを受け取りながら小さな声で聞く。
「おめぇが一番いいの!ノルやクレイはデカイし、キットンには何されっかわかんねぇし、チビ達にはおもちゃにされるのが目に見えてる!だからお前が一番安全なわけ。ま、そんな訳で頼むわ!」
こんなサイズのトラップならいつでも大歓迎だけどね。
「うん。了解!よろしくね。」
ふふふ。
本当に可愛い!
憎まれ口は変わらないけど、容姿が可愛いから迫力が無いんだよね。
可愛いって言ったらトラップは怒るだろうから言わないけど、ユラユラ揺れるしっぽやピクピク動く耳が堪らなく可愛い!!
しばらく一緒にいれるみたいだし、猫じゃらしでも探してこようかな?
「そう言えば二日酔いは?大丈夫なの?」
「・・・・・大丈夫みてぇだな。」
「「・・・・・・・・。」」
あの薬は一体、なんの薬だったんだろう。
******
「へ?あの時の薬ですか?あれはですねー。きっとあの時開発中だった『今年の主役になれる薬』と『二日酔い』の薬が混ざったみたいですねー。今年は寅年ですから。ま、彼自身そんなに悪い薬でもなかったんじゃないですか。結構楽しんでたみたいですから。でもあの薬は失敗作ですね。来年こそは成功させたい思います!」
おしまい。
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《トラップよ大志を抱け!》
私は、ノイ・キットンと申します。
あ。ご存知でしたか。
いやぁー、私も有名になったものですねぇ!ぎゃはっはっはっは!
しかし今回は誠に残念ながら、私の話ではありません。
我がパーティの盗賊で、トラブルメーカーでもある彼の話なのです。
彼は同じパーティの詩人兼マッパーの彼女にベタ惚れなのですが、なかなか想いを伝える事が出来ずにいます。
そんな彼の一日を追ってみました。
彼はいつも、暇を見つけては彼女の元へと足繁く通っているのです。
少しでも構って欲しいのでしょうけど、彼女にしたら邪魔以外の何ものでもありません。
ほら、今日も・・・。
ノックも無しに入ってきたトラップにチラリと視線を送ったものの、パステルは視線をさっきから読んでいる『冒険時代』へと戻してしまいました。
「昼寝なら自分の部屋でしてよね。」
これは彼女の決まり文句です。
もちろん。
彼は本当に昼寝をする為だけにこの部屋を訪れている訳ではないのですが・・・。
鈍感な彼女には分かってもらえません。
「・・・昼寝じゃねぇよ。あのよー。」
「・・・・・んー?なあに?」
おやおや、パステルは顔も上げません。
きっと大した事じゃないと思っているのでしょうね。
「おめぇが一番だ!」
「へ・・・・?」
さすがのパステルも、彼からのいきなりの大胆告白に頭を上げました。
はしばみ色の大きな目をぱちくりしながら、トラップの言わんとしていることを必死に考えています。
すると突然。
ポッ。とパステルの両頬に赤みが・・・。
おや!珍しい事もあるものです。
彼の想いはちゃんと通じたみたいですよ。
頬を赤らめたまま、恥ずかしそうにでも嬉しそうな笑顔でパステルは
「・・・トラップから言って貰えるなんて思ってなかったから・・・すっごく嬉しいよ!!
ありがとう!私、これからも頑張って小説、書いていくから応援してね!」
ニコニコと本当に嬉しそうに笑うパステルの手にはさっきも言いました様に、『冒険時代』が。
違いますよ!パステル!!
小説のことじゃありません!
・・・・まぁ。物陰に隠れている私が叫んでも仕方ないのですが。
「ちげぇよ!だぁっー。もっと分かりやすくしてやるよ!」
ふむ。トラップは諦めないみたいですね。
当然でしょう。
なんせ、彼女にベタ惚れですからね!
今度はゆっくりとパステルの後ろに回り、彼女の体をぎゅっと抱きしめました。
「・・・・パステル。」
「ト、トラップ・・・?」
2人きりの部屋が一気に緊張感で包まれます。
いやー。トラップ!やりますね!
おっと。私が覗いている事はトラップには内密でお願いします。
私の個人的な趣味ですので。
パステルの顔が、さっきよりも一段と赤色に染まっていきます。
そんなパステルの体をさっきよりもぎゅっと強く抱きしめたまま、ついにトラップが口を開いて・・・
「パステル。あいし」
「ぱあぁるうぅ!!!たいへんらおうっ!!」
「て・・・・ルーミィ?」
「ルーミィ!!どうしたの!?」
・・・・バタバタと階段を降りていくパステルと、ポツンと置いてかれた一人のシーフ。
あーあ。
さっきまで彼女を抱きしめていた腕が、所在無く宙に浮かんでいます。
「くそぉー!!ルーミィのヤツ!いっつも邪魔しやがってっ!!」
いえ。ルーミィの邪魔はワザとじゃ無いと思うので、ルーミィは悪くないと思いますよ。
多分・・・・ね。
「なぁ!パステル。2人で出掛けねぇか?」
あの後も懲りずにパステルを追いかけて、ルーミィから引き剥がすと次はパステルをデートに誘っています。
きっと、誰にも邪魔されない所でゆっくり告白するつもりなのでしょうが・・・・・。
果たして、そんなに上手くいくのでしょうか?
「えっ?トラップと2人で?」
「おう!買い物でもしながらブラブラしようぜ。」
「わぁーい!!じゃあ荷物持ち、お願いね!」
「いや、そうじゃなくって・・・。」
「ありがと!トラップ。今日は重たい物を買うつもりだったからすっごく助かるよ!」
「や、だから・・・。」
「よし!じゃあ行こっか。トラップ!」
「・・・・・わぁーったよっ!」
これは完全に尻に敷かれていますね。
きっと、これから先もこの関係が崩れる事は無さそうですね。
惚れた弱みです。
トラップ、諦めてください。
おっと、2人が出掛けたみたいです。
では、気付かれないように私も後を追いたいと思います。
2人はブラブラとシルバーリーブの商店街を歩いているのですが、傍から見ればデートそのものです。
雰囲気もとてもいい感じです。
おや。パステルが足を止めて何かを見ています。
露店のアクセサリーショップで気になるものを見つけたみたいですね。
「あに見てんだよ。」
「あ、トラップ!見てこのネックレス。きれーい。」
パステルも一応、年頃の女の子ですからね。
こう言った物にも興味があるのでしょう。
それにしても、本当に2人が『デート中のカップル』にしか見えなくなってきました。
露店のお兄さんも同じだった様で、
「彼女、彼氏に買って貰ったら?すんごく似合ってるし。」
トラップを指差してパステルに笑顔で勧めています。
「ほら、彼氏も!彼女似合ってるよねー?可愛いじゃん!」
そんな店員のセールストークにパステルは
「あはははっ!全然違いますよー。彼氏なんかじゃないですから。むしろ、手のかかる弟って感じです!」
ケラケラと笑って答えています・・・・・。
ああー・・・パステル。
貴女の言っている事は正しい。
全くもって正しいのですが、そこまではっきりキッパリ言い切らなくても良いのでは無いでしょうか・・・。
彼の精神的ダメージは計り知れません。
露店の冷やかしも過ぎ、少し歩き疲れたのでしょうか猪鹿亭にお茶をしに入ったみたいです。
私も神経を使う尾行に少し疲れました。
リタに美味しいお茶の一杯でも出していただきましょう。
「いらっしゃいませー!あら、キットン!パステル達はあっちの席にいるわよ?」
「いえ。私はここの席で十分です。」
「なに?まさか・・・また尾行中なの?キットン、あなたも物好きねぇ。」
「ふふふ!今日のトラップはか・な・り・頑張ってますよ!トラパス応援団長代理としては見逃す訳にはいけません!」
「ふーん。何、それ。トラパス応援団?しかも代理?」
「はい。団長はゼンぱあさんなので、私が代理人として2人を見守っています。
専ら、トラップの恋愛を陰ながら応援しています。リタも如何ですか?」
「・・・・・遠慮しとくわ。私はパステルの応援ならするけどね。じゃあキットン、ゆっくりして行って。」
「ありがとうございます。」
残念です。リタの勧誘には失敗してしまいました。
おっと、大事な事を忘れる所でした。
あの2人は・・・・・リタに出されたお菓子をつまみながらお茶をしているみたいですね。
「あまーい!このお菓子。程よい甘さで疲れが取れるんだよねー。いつ食べても美味しいー!」
「好きだ。」
おお!
なんと話の流れを無視したいきなりの告白でしょうか。
しかし今回は全くひねりの無い、分かりやすい言葉です。
これはいくら鈍感なパステルでも伝わるでしょう!
「私も好きだよー。」
・・・・キタ!
来ました!
遂にトラップにも春が!!
「ほ、本当か?」
思わず聞き返すトラップの声も震えています。
ええ!ええ!
それはそうでしょう。
思えば長い道のりでしたから。
「うん!このお菓子、本当に美味しいもん!私大好きなんだー。」
・・・・・は?お菓子?
私とした事が・・・・・
大切な事を忘れていました。
彼女はただの鈍感ではありません。
『超ウルトラスーパーミラクル鈍感クイーン☆』だった事を。
一体どこまで彼を空回りさせれば気が済むのでしょうか。
彼の両目から血の涙が流れているのは気のせいではない気がします・・・。
「リタ、美味しかったよ。ごちそう様ー!ほらトラップ。残りの買い物して帰るよー。」
「う、ううん。パステル、また来てね。トラップも。」
亡霊のようにパステルの後ろに佇むトラップの耳元に
「今度、サービスしてあげるからさ・・・元気出しなよ?」
そう、励ますリタの声が聞こえてきました。
トラップはリタの気遣いに弱弱しい笑顔を残して店を後にしました。
「キットン・・・・トラップの奴、大丈夫なの?」
さすがのリタも心配なのでしょう。
「大丈夫ですよ。あれくらい、どうって事ありません。いつもの事ですから。」
「そう・・・そうなんだ。いつもの事・・・・。」
「トラパス応援団、入団されますか?」
「・・・・考えとくわ。」
「・・・・わかりました。では、私も失礼します。」
リタが入団するのも時間の問題ですね。
私が店の外に出ると、トラップが真剣な面持ちでパステルの手を握っていました。
めげません!
へこたれてません!!
そうですよ!
それでこそ、男の中の男です!!
超ウルトラスーパーミラクル鈍感クイーン☆相手に、へこたれてる暇などないのです!!
パステルの手をぎゅっと握り、
「パステル、そのう・・・何か感じねぇか。」
ほほう。
次の作戦はパステル自体に想いを自覚させる作戦のようですね。
「あ・・・・・・。その・・・・う。実は、トラップと手を繋ぐたびに想っていた事があるんだけど・・・・」
「な、なんだ?」
だからトラップ。
声がうわずってますよ。
「私・・・・・ね・・・」
お・・・や?
「お、おう!」
パステルの態度が今までと違いますよ?
「トラップの事・・・・・。」
ま、まさかの・・・!!
「・・・・!!!(ゴクンッ)」
わ、私まで緊張して来ましたー!!
「心が冷たい人なんだと思ってたんだ。・・・エヘ。」
「「・・・・はい?」」
おっと!
思わず声を出してしまいました。
トラップにはばれてないといいのですが。
「ほら!手が冷たい人は心が暖かいってよく言うでしょ?トラップと手を繋ぐと、いつもトラップの手あったかいからさ、心の冷たい人なんだなぁ・・・・って思ってたの。
でもこの間、キットンに医学的根拠はありませんって言われちゃった。
勝手に勘違いしててごめんね?」
パステル。
トラップの手がいつも暖かいのは決して心が冷たいわけではなく、貴女と手を繋ぐからですよ!!!
お願いですから、それぐらい分かってあげてください!!
・・・・というのは無茶な話なのでしょうか。
おや。
トラップと目が合ってしまいました。
ばれてしまったみたいですね。
ここで今日のお話は御終いです。
でもこれからも、超天然ウルトラスーパーミラクル鈍感クイーン☆との戦いはまだまだ続くのです。
おしまい。
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☆パステルを祝う会 PART1☆
《迷子姫》
「寒いなぁー。」
思わずそう呟くと、吐き出された白い息はそのまま空へと消えていった。
寒くて当たり前。
だってここは2月のドーマなんだから。
外に出れば一面の雪景色で、街中いたるところで雪かき作業を見る事が出来た。
いつもの如く、今回もトラップの実家にお世話になってるんだけどね。
お世話になってる身としてはなにかお手伝いしたいじゃない?
少しでもトラップのお母さんの助けになりたいから。
そう言って一人でお使いをかって出たんだけど・・・・・。
なんてことは無い。
現在進行形で迷子。
きっとトラップが起きてたら間違いなく止められたと思うけど、幸か不幸か彼はまだ布団の中だった。
「おっかしいなぁ・・・。ちゃんと地図見てたのに・・・。」
トラップのお母さんに書いてもらった地図をもう一度見つめてみる。
ううん。
もう何度も見直してるもん。
そろそろ穴が空いてもおかしくないと思う。
「間違ってないと思うんだけど・・・。ここはどこなんだろう・・・。」
買い物も済んで家に帰るだけなんだけど、地図の通りに行ってもトラップの家は見えてこない。
むしろ周りの景色もさっきと違ってきて、広い広い雪原が広がっている。
どこを見ても真っ白なんだもん。
ここらへんは雪かきもされてないみたいで、今歩いている場所が道なのかさえ解らない。
雪かきがされてないって事はもちろん、人通りも無い。
「パステル?」
「え・・・・!?」
いきなり声を掛けられて驚いて振り返る。
「やっぱりパステルじゃないか!こんな所でどうしたんだ?
・・・・ってまさか、また迷子だったりする?」
一瞬トラップかと思って振り返るとそこには、クレイのお兄さんのえーと・・・確か・・・。
アルテアさんが一人で歩いてきた。
「あっ・・・!こ、こんにちは!!」
ペコリ!と頭をさげて挨拶するとかっこいい笑顔で少し意地悪そうに
「クレイのヤツから聞いてたけど、本当によく迷子になるね。」
と、くっくっく。と笑いながら私の顔を覗き込んできた。
うっひゃー!!
そんなに近づいてきたら余計に緊張するじゃないのー!
「す・・・・すみません。」
「どうして謝るの?」
「・・・迷うつもりは無いんですけど、気がついたらいつも迷子になっちゃうんです・・・。」
いつもトラップ達には迷惑かけてるもんね・・・。
迷子?って聞かれると謝るのが私の癖になってるのかも。
「ふーん?俺はパステルが迷子になってくれて嬉しいけど?」
「・・・へ?う、嬉しいんですか?」
男前の考える事はよく解らない・・・・。
ポカーンとアルテアさんの顔を眺めていると、
「うん。嬉しいよ?こうしてパステルと2人っきりになれたからね。」
そう言ってパチンとウインクを飛ばしてきた。
うきゃーぁ!かっこいいー!!
そんな事言われたら、世の中の女の子みんな迷子になっちゃうよ!!
「あはははー。ありがとうございます。そう言ってもらえると気が楽になります。」
きっと気を利かせてそう言ってくれたんだろう。
そう思ってお礼を言うと
「え?そこ笑う所なの?もしかして冗談だと思ってる?」
不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。
だから近すぎですってばぁ!
「ええぇぇぇっ!?冗談じゃないんですか?」
「ぶっ!あはっはっはっ!!本当に可愛いなぁパステルは!」
「いやっいやっ!全然可愛くないですから!」
「俺もパステルとパーティ組みたかったなぁ!このまま掻っ攫ってもいい?」
「はいっー!?」
目がグルグルしてきた!
気が付くと、私はアルテアさんの腕の中にいて。
だ、抱きしめられてる!!??
「あっ!あのっ!?アルテアさん・・・?」
何が起こってるのー?
「・・・そんなに殺気立って後ろに立たないでくれる?」
「そいつから離れろ。」
「なんでお前に命令されなきゃいけないのかなぁ?ねぇ。パステル。」
「ト、トラップ・・・?探しに来てくれたの?」
相変わらず抱きしめられたままの私からはトラップの姿は見る事は出来ない。
「離れろっつってんだろ。」
「せっかくパステルと二人っきりだったのにね。・・・仕方ないなぁ。パステルはトラップの所に戻りたい?」
もしも、戻らないって言ったらアルテアさんにどこに連れて行かれるのか・・・。
「えーと・・・すみません。戻りたいです・・・。」
「そっかぁ。」
少し残念そうな表情で私から少し身を引くと
「俺、パステルに振られちゃったなぁ。」
なんて言い出すではないか。
「振って・・・!?振ってないですよ!!そんな!恐れ多いです!!」
アルテアさんの爆弾発言を力一杯否定すると、
ぱっと笑顔になって
「良かった!じゃあ今度はお邪魔虫の居ない時にデートしようね!」
ほっぺに『ちゅっ。』と衝撃がきた。
「「えええぇえええー!!??」」
トラップの絶叫と私の絶叫が重なる。
「そうそ。パステルもうすぐ誕生日なんだろ?」
「えぇぇえーと。そ、そうでしたっけ?」
「あははっ!うん。そうみたいだよ?これ、俺からのプレゼント。」
きらりと光ったソレは・・・
「うりゃあぁあああぁあー!!!!」
私の目に留まることなく、トラップによってキラキラと光る雪原の中へと飛んでいった・・・・。
「ちょっと!!トラップなんて事するのよ!?アルテアさん!すみません!!」
「トラップ・・・おまえなぁ・・・。あー。パステルは気にする事ないよ?」
「で、でも!!」
トラップってば、なんて失礼な事するのー!?
「パステル、本当に良いんだ。その代わりに必ずデートしてね?」
「は、はいっ!!私でよければ必ず!!」
「こらっ!?パステル!?」
「うるさいっ!トラップは黙ってて!」
「くっくっく・・・トラップ、ばぁーか。自業自得だ。じゃ!パステルまたね!約束だからね!」
「はい!約束します!本当にすみませんでした!」
「アルテアッ!お前ワザとだろっ!?汚ねぇーぞ!」
アルテアさんに向かって怒鳴り散らしてるトラップを軽く無視しながら走り去っていく。
「あ!パステルー!!」
雪の中を走り去っていくアルテアさんが振り返って私の名前を呼んでる。
「はい!どうしたんですかー?」
「誕生日、おめでとう!!」
ほんわか胸の中が暖かくなる。
「あ、ありがとうございます!!」
「じゃあねー!」
そう言って素敵な笑顔を残していった。
「・・・・・帰るぞ。」
「あ。トラップ迎えに来てくれてありがとね。」
「んなことはどーでもいい。パステル、あいつとデートなんかすんじゃねぇぞ!?」
「はぁ?何言ってんの?誰のせいだと思ってるのよ!?」
「うっせぇー!今度あいつに付いてってみろ!ただじゃすまねぇぞ!?」
「何?お金取られるって事?」
「アホかぁっ!!!!」
END
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☆パステルを祝う会 PART2☆
《ある朝の出来事》
誰もいない弓道場での朝練中。
ぎり・・・・・
耳元で弦が放せと囁く。
矢が飛ばせと呟く。
的を見つめて狙いを定め、放す。
「パンッ!」
弓道場に心地良い破裂音が響き渡った。
くうぅぅーっ!
この矢が的に当たったときの音が私は大好き。
何度聞いてもいい音!
そうやって一人、余韻に浸っていると突然声を掛けられた。
「いいんじゃねぇの?今の。」
「トラップ!来てたの?」
「ああ。さっきな。」
「今の良かったよね?自分でもそう思う!」
「矢も真っ直ぐ飛んでたし、狙いも十分だろ。今のを忘れないでもう一回やってみそ?」
「うん!」
トラップに促されてもう一度弦に矢をつがえる。
「何があっても平常心だからな。りきみすぎんなよ?」
「う、うん。」
すー。はー。
呼吸を整える。
よし。
「当てようとか欲を出すなよ?狙いが狂うぞ。」
「・・・・わかった。」
・・・ちょっと黙ってて欲しい。
せっかくの精神集中が切れちゃうじゃない。
もう一度。
すー。はー。
弓道は呼吸も大事。
ゆっくりと弓を打ち起こす。
「ほら。肩に力が入ってるぞ。力抜けって。」
「・・・・・・。」
うるさいなぁ。
教えてくれてるのは分かってるんだけど、自分のペースでやりたいじゃない?
それをごちゃごちゃ言われたら本当に集中できない。
「余計な事考えてんじゃねぇぞ!平常心で集中しろ!」
プチン!
何かが切れる音がした。
「さっきからうるさーいっ!!あんたのせいで集中できないでしょうが!!ちょっと黙っててよ!」
「なんだと!?せっかく教えてやってるのにその言い草はっ!?」
「やいやい五月蝿いって言ってるの!私の矢に・・・・射貫かれたい?」
「・・・・すみません。黙ってます。」
「絶対だからね?」
しっかりとトラップを睨み付けて牽制すると、
「・・・・わあーったよ。」
と口を閉じた。
それを見届けた私は再び的に向かう。
すー。はー。
うん。
平常心。平常心。
ゆっくりと弓を打ち起こしてバランスよく弓と弦を引く。
さっきと同じように、耳元で弦が鳴る。
ぎり・・・・。
しっかり狙いを定めて・・・・。
よし!
「あ!パステル、誕生日予定空けとけよ?」
びよ
なんとも情けない音をさせながら矢が飛んでいった・・・。
もちろん矢は的には当たらず、外れていた。
「・・・・トラップ、ちょっと的の横に並んで来てもいいよ?」
にこっと私が笑顔で的の方を指差すと
「こえっ!」
と、トラップが後ずさった。
「大丈夫!次は絶対外さないから。・・・・的も大きいしね?」
「的って俺の事だろうが!パステル、悪かったって!!」
「本当にそう思ってるの!?邪魔するんなら出てってよ!?」
「だあら謝ってるだろ!次はちゃんと黙って見とくから!」
「・・・・・次邪魔したら命は無いわよ?」
「へーへー。」
・・・・この後の朝練習が練習にならなかった事は言うまでもないけどね!
END
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☆パステルを祝う会 PART3☆
《助手席の眠り姫》
のどかな昼下がり。
昼休憩も終わってポカポカ陽気の中をひたすら、ヒポを走らす。
「けっ!相変わらず全滅かよ。」
昼飯を食って満腹のうえ、これだけいい天気の中を何もすることなく座ってるとそりゃ眠くもなるだろう。
仕方ねぇとは思っても一人、寝たくても寝れねぇ状況の俺に対する気配りとかはないのか。
・・・・特にこいつは。
さっきから隣でコクリ。コクリ。と船を漕いでるパステル。
「おい!寝てないだろうな!?」
グラリと頭を傾けたパステルは、肩をビクリとさせた。
「・・・ほへ?ね、寝てないよ!大丈夫!大丈夫!」
・・・・寝てやがったな。
「俺だって昼寝したいのを我慢して運転してんだからな!助手席に座ってるヤツは寝るんじゃねぇ!」
「うぅぅ。寝てないって!ちょっと考え事してただけだから。あはっははは・・・。」
「ったく。バレバレだっつぅの!」
「・・・・やっぱり?」
エヘヘ。と誤魔化し笑いのパステルをチラリと睨んでやる。
「もうすぐズールの森に入るし、そこを抜けたらシルバーリーブに着くんだからもう少し起きてろよ!?」
少しでもこいつと2人だけの時間が欲しいと思いながら。
まぁ・・・後ろにはパーティ全員が漏れなく乗ってるけどな。
全滅だからほっといてやる。
「ふああぁあぁあ・・・。」
返事には大きな欠伸が返ってきた。
「・・・・パステルさん?」
ギロリと再び睨むとアワワと慌てて口を押さえて
「だ、大丈夫!うん。あと少しだもんね。ちゃんと起きてるよ!」
「本当かよっ!?」
思わず突っ込まずにはいられねぇ。
「うぅ・・・。じゃあさ!私が寝ないようになんか話しようよ!しりとりとかは?」
「しりとりぃー?ルーミィじゃあるまいし。しりとりなんかしてどうすんだよ!?」
「あれぇー?ダメ?頭使うしいいと思ったんだけどなぁ・・・。」
俺はルーミィレベルかよ!
「却下!」
「却下って・・・。あ!ズールの森が見えてきたよ。」
前方に大きな森が見えてきた。
「おぉっ!本当だ帰ってきたなぁ。」
「うんうん。ズールの森が見えて来ると帰ってきたって気がするよね!」
「だな。」
「私ね、ズールの森を通るたびにあの頃の事を思い出すんだ。」
「あの頃?」
「うん。ルーミィと出会って、トラップに助けられた時の事。」
「ああぁ!ボロボロの浮浪娘2人がスライムにキャーキャー言ってたやつか。」
けっけっけっ!と意地悪そうに笑ってやる。
案の定、パステルは頬を膨らませて
「浮浪娘って!!・・・まあ、間違ってないけどさ。」
そう言って目の前に迫ってきたズールの森に懐かしそうに目を向けた。
ヒポは止まることなく森の中へと続く道を走り続けていく。
14歳の頃の俺が森の中を歩いている。
クレイと2人で。
ふざけ合いながらまだ先の長いエベリンを目指していた頃。
俺らの修行の旅は始まっていた。
「きゃあぁあぁああっ・・・!!」
あの時俺の耳に聞こえてきた少女の微かな悲鳴。
それがパステル達だった。
思い返せば、よくあの悲鳴を聞き取れたと自分でも思う。
パステル達と出会って一緒に過ごした日々。
笑って、泣いて、ケンカしてまた一緒に笑いあう。
そんな中で俺の中に芽生えた感情。
すべては必然であるかのように・・・・・。
「・・・・なぁ。パステル。俺さ・・・初めてお前を見つけたからきっと・・・・パステル?」
「・・・・くぅー。」
「って!!寝てんのかよっ!!」
コツン!
「!!!!!!!」
自分の左肩にはキラキラと太陽の光を受けて輝く蜂蜜色のパステルの髪が見えた。
「・・・・ったく!しゃーあねぇなぁ!!」
この森を抜けてシルバーリーブに着くまで貸しといてやるよ!
俺様の大切な左肩をなっ!!
出会って4年・・・・・今もこいつが俺の隣にいる。
END
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☆パステルを祝う会 PART4☆
《スパルタも遺伝?》
今日は私の20数回目の誕生日。
え?
正確には何歳かって?
もう。
いいじゃないそんな事は!
「おかあさん!お誕生日おめでとう!!」
振り返ると、トラップ譲りのサラサラの赤毛を今日は縛らずにおろしている娘がいた。
「ありがとう!!」
「はい!誕生日プレゼント!」
そう言って娘から渡されたプレゼントを見て思わず、がっくりと肩を落としてしまった。
「ええぇえー!?またこれなのぉー!?」
深草色の表紙に書かれた
『誰でもわかる!! マッパー入門』
の文字・・・・・。
実はこの本を貰うのは5度目になる。
つまり・・・・5年前から毎年誕生日プレゼントはこの本で・・・
今年で5冊目。
「・・・・プレゼントはうれしいんだけど、そろそろ他の本がいいなぁ。」
貰ったものに対して注文をつけるなんてしたくないけど、毎年同じじゃそろそろ文句も言いたくなる。
でも・・・・
「だーめっ!」
「えーん!」
「おかあさん!せめてドーマの街中で迷子にならないようになってもらわなきゃ困るんだからね!」
「うぐぅう・・・。」
「お父さんが冒険中、いっつも私が探しに行ってるんだから!」
「・・・・はい。その通りです・・・。」
「私とパス太が修行に出たら、誰もお母さんを探してくれないんだからね?」
「大丈夫よ!その頃には迷子にならないと思うし。ね?」
「だ・か・ら!そうなって欲しいからこの本でちゃんと勉強してよ!じゃないと私、安心して冒険者資格取りに行けないじゃない。」
「お姉ちゃん・・・厳しいなぁ。」
「お母さんの為に厳しくしてるんだからね!今年こそ頑張ってよ!」
「ふあーい・・・。」
誰に似たのかスパルタ教育の娘・・・・。
このあとちゃんともうひとつ、プレゼントを用意してくれてるんだよね。
実は・・・。
毎年ありがとね!
でも・・・
この本は来年も増えていく気がしてならない・・・。
口が裂けても言えないけど。
END
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